理想像

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サンチェスがボールを持ったことで日本のサポーターは戦々恐々とした そんな難敵を迎え撃つのは、奥村に代わって入ったばかりの龍崎であった 「早速大仕事が来たぜよ」 龍崎は怪しげな笑みを浮かべながらサンチェスを待ち構えた 「しっかりと頼んだぞ、ハル!」 「任せるちや」 相良の呼びかけに対して、龍崎は意気込みを見せた 飄々と目の前に立ちはだかる龍崎は、サンチェスは気にも留めなかった 「おまえなんかオレの相手じゃねえ このカウンターでゴールを決めてやる」 「それは困るちや」 サンチェスと対峙してもなお、龍崎の表情から含みのある笑みが消えることはなかった 「その薄ら笑いを消してやる!」 サンチェスは龍崎の内側から抜きにかかると、重心をずらしたところで右足のアウトサイドを使って右方向へ切り返した 「おお?」 サンチェスの高速フェイントにつられた龍崎は簡単に裏を取られてしまった 「フンッ、やっぱ大したことねえな!」 初戦は控えと侮るサンチェスであったが、フェイントに引っかかった拍子に龍崎は足がもつれて倒れてしまった 「おっと!」 そして不運にも抜きにかかっていたサンチェスへともたれてしまうのであった 「なッ、おまえ!」 龍崎に寄りかかられたことでサンチェスはバランスを崩してしまい、そのまま相手にのしかかられる形で倒れ込んでしまった 「すまんのう」 「おまえ、よくも!」 「そがに怒りなや 不慮の事故じゃか」 「くッ……!」 サンチェスは悪びれる様子もなくとぼける龍崎の態度に腹を立てたが、審判の手前で手を上げるわけにもいかず、こみ上げる怒りをぐっとこらえていた 駆け付けて来た主審は注意にとどめ、カードは出さずにそのままチリにフリーキックを与えた 「ちッ、運がいいヤツだな」 スロアガは忌々しげに龍崎を睨みつけていた 「たまたま倒れた方向にサンチェスがいたおかげで何とか止められたが、あれがなければサンチェスの1点だったぜ」 ピカルテも龍崎の反則で得点チャンスを防がれてしまったことを口惜しく思っていた チリの選手たちの間で龍崎への心象が悪くなるなか、ビチェスは怪訝な表情で龍崎の方を見やっていた 「まさかあれをわざと狙って……ってことはないよな?」 自陣へ戻って来て清澄に明るく励まされる龍崎 試合前のデータがほぼ皆無の男に、謎は深まるばかりであった
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