奇妙な同国人

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試合開始前に入場ゲートで待機しているところで、この2人の日本人は初めて対面するのであった 「あなたさんが海堂さんですかぁ?」 海堂の目の前に現れたのは、整った顔立ちに、少々髪に癖のある好青年であった 「オレが海堂だ ってことはおまえがうみおいすか?」 「うちは海老寿(えびす)孝明(こうめい)言います」 「さっきから妙な訛りだな」 関西弁、福岡弁などこれまでに色々な方言を聞いてきた海堂であったが、海老寿の訛りはどの方言にも似ているようで似ておらず、何ともつかみづらい訛りが耳についた 「昔から日本全国を転々としていましてぇ、そのせいで少し訛りがあるんですってぇ」 「……少し?」 海老寿の言い分としては、幼少期から北は北海道、南は沖縄と、日本の各都道府県を短いスパンで転住しており、そのおかげで各地方の方言を少しずつ取り入れた独特の訛りが生成された、ということである 「それより、今日は海堂さんに会えることを楽しみにしていましたぁ」 「そうなのか?」 「ええ、噂は常々聞いていましてぇ」 「ほう、オレの噂はオーストリアにも届いてるのかよ」 海堂は笑みを浮かべて海老寿に訊ねた 「ええ、かれこれ3年も前からねぇ」 「そんなにかよ……」 「ですから今日会えたのがとても嬉しいのですってぇ よろしくお願いしますわぁ」 「お、おう よろしくな」 海堂は海老寿と握手を交わしながら、この奇妙な言動の男に疑問と気がかりがぬぐい切れずにいた それから間もなく選手たちの入場が始まり、ヨーロッパリーグの開幕を迎えようとしていた ドルトムントは若手主体のメンバー構成となっており、センターバックとしてこの試合先発出場を果たした海堂は、ギリシア人のステファノプロスとコンビを組み、そして中盤にはハヴェズダとツァイラーが入り、そして前線には若きエースのゲルツの姿があった 4‐2‐3‐1のフォーメーションを取るドルトムントに対し、4‐3‐1‐2という編成を組んでおり、海老寿は中盤の底となるアンカーのポジションを取っていた この日本人の若手2人の対決を見届けようと、日本サッカー連盟の本村は現地まで視察に訪れていた 「海堂君に海老寿君 たがいに守備的なポジションだが、この2人の戦いは楽しいものになりそうだ」
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