奇妙な同国人

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アウェイのザルツブルクのキックオフで試合が始まった センターサークルから自陣へボールが下げられると、ドルトムントのアタッカー陣がプレッシャーをかけに向かった 中盤の底でパスをもらった海老寿は、相手が猛然と迫りくるも、非常に落ち着いた様子でボールをキープしていた 「舐めた態度してると痛い目を見るぞ!」 闘争本能むき出しでプレスに来たバラハスを海老寿は最小限の動きで受け流し、相手の勢いを無力化した 「なにッ!?」 「そろそろ頃合いですねぇ」 相手の第2のプレスが迫りくるなか、海老寿は前線へと縦に長いパスを蹴り上げた このロングフィードは中盤を省略して、一気にドルトムントの最終ラインへと到達した 「こんな簡単にボールが通ってたまるか!」 センターバックのステファノプロスは頭でボールを跳ね返そうとするが、その正面を相手のフォワードに遮られてしまった 「へへっ、邪魔するぜ」 「こ、こいつでかい……!」 身長185センチ以上の上背を持つステファノプロスだが、相手のフォワードはさらに頭一つ分とびぬけていた 彼の名はエイリーク・ラグナルセン ノルウェー出身の19歳で、文字通り大型新人である ラグナルセンはステファノプロスを抑え込み、バックヘッドでボールを裏のスペースへと落した 「そう来るだろうとは思ってたぜ!」 しかし相手の行動を読んでいた海堂の反応は早く、パスコースへと先回りしていた 「もっかい向こうからやり直してきな!」 海堂がボールを敵陣へとクリアしようとしたところ、その傍らを一陣の風が吹き抜けていった 「ナイスパス!ラグ!」 「後は任せたぜ!」 「なッ……!」 驚きを隠せない海堂 それもそのはず、完全にパスコースに先回りしていたはずであったにも関わらず、後ろから飛び込んできた相手に先を越されてボールをかっさらわれていったのである 「ま、まずい! こんないきなり失点なんてシャレにならないぞ!」 完全に最終ラインの裏へと抜けられてしまったドルトムントは、最後の砦となるキーパーのシュトルツァーが必死の態でゴール前から飛び出した 「オレの名はサリウ・ディオネ! こいつはあいさつ代わりだ!」 セネガル人フォワードはそう叫びながらシュートを放ち、ボールをゴール右隅へと丁寧に流し込んだ 「決まったァ!」 まさに一瞬のできごとである ザルツブルクは試合開始1分足らずで、自陣からのロングボール1本から先制ゴールを決めてみせた
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