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月夜
黄金色に波打つ稲穂の海。
前を歩く仲間達の、長く伸びた黒い影。
何処か寂し気な烏の声。
つ、と刺すような冷たい風が袖の中へ入ってくる。
……眩しい。
目を細めて、ごうごうと燃える太陽を見た。
太陽の火が移ったかのように、空まで茜色。
反対側の空は、もう夜だ。
一番星が光っている。
どうして秋の夕暮れはこんなに切なくなるのか。
理由なんてないのに。
「おい、どうなんだ?」
突然話しかけられてふと前を見ると、先生や同門の者達が一斉にこちらを見ていた。
全く話を聞いていなかった。
困っている俺に助け舟を出したのは土方さんだった。
「隣の道場の師範代だよ。勝てそうか?」
どうだろう。
隣の道場の師範代って、どんな人だったっけ。
でも答えは決まっている。
「先生が勝てって言うなら、俺は勝つね」
そう言った途端、先生は本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔が嬉しくて。
そうだ。だから俺は……。
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