稲妻絶つ

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滝のように雨が落ちてきていた。 頭を上げるのも辛い程の大雨で。 視界を白く引き裂くような閃光と雷が、地面を割らんばかりに鳴り響く。 怒号。 向かってくる者も退散していく者も皆混乱と興奮の中にいて、怒鳴ったり悲鳴を上げたりしていた。 泥濘の中必死にもがいて、走っているあれは…… 「土方さん!」 沖田は手を伸ばす。 土方は誰かの手を肩に回して、支えながら走っていた。 足元には倒れて動かない男達の体がごろごろ転がっている。 と。 そんな土方の背後で長い筒状の何かが向けられる。 銃だ、と沖田は気づいた。 「土方さんっ!」 思うように体が動かない。 「ひじっ……」 落ちてくる雨粒もまとわりつく泥も、沖田のことをしつこく捕らえようとする。 「土方さん!土方さん!」 早く逃げてくれ。頼む。 でないと。 手を伸ばした。あと少しで触れる、というところで急に土方の姿が消えた。 え、と。 よろけつつ、沖田は振り返った。 暗闇が、広がっていた。 雨の音も怒号も雷鳴も、何も無い。 その暗闇の中にぽつりと浮かぶのは。 近藤の、生首だった。 わあぁぁあああ。 叫びながら沖田は飛び上がった。 横でうたた寝していた女の子は衝撃でびくっと目を覚ました。 心臓がばくばくと壊れそうな音を立てた。 だがそれよりも。 「総司さん?」 布団の上、顔を覆って叫び続ける沖田に女の子は惑った。 急にどうしたというのか。 手を伸ばしかけて、でもその尋常でない様子に固まってしまう。 小さな掌は宙で止まったまま。 女の子は今日、久しぶりにここへ来た。 訳もわからず泣いてしまったあの日から、気恥ずかしくて沖田には会えなかった。 急に泣き出した自分を見て沖田はどう思っただろう。 心が不安定だと思っただろう。 気が触れたのだと解釈されていたら最悪だ。 血を見たら涙が出たのだと言おうか。 でもでも。 活気付く町の中、人々の波を躱しながら大いに悩む。 沖田は血を吐いていることを秘密にしている。 それどころか、極力体が悪いのを悟られまいとしているようだ。 本当はもう起きているのだってとても辛いはずで。 触れたら明らかに熱のある日もあった。 それでも沖田は何も言わず、態度にも出さなかった。 敢えて隠そうとしているのなら、こちらから触れることはできない。 この距離感が少し苦しい。
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