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うんうん、と頭が痛くなる程悩みながらやって来た植木屋の別邸で沖田は眠っていた。
布団の上でぐったりと体を横たえている。
汗ばんだ額に触れると体を重くするような熱が、体の中で燻っているのを感じた。
枕元には水の入った桶と手拭いが置いてあった。
おばばが置いていったのだろう。
女の子は手拭いを水に浸して、沖田の額にそっと載せた。
ねぇ、総司さん。
もうこんなに分かるほど体悪くなってるよ。
苦しそうに吐き出される熱い吐息に女の子は顔を顰めた。
こちらまで苦しくなる。
少しでもゆっくり眠れますように、と祈りを込めて女の子は沖田のことを見つめていた。
「わぁあああ」
雷のような悲鳴に女の子は驚いて目を覚ました。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
顔を上げると、布団から上体を起こした沖田が錯乱していた。
「総司さん?」
虚ろな瞳には女の子の姿もーーこの部屋ですら映っていない。
まるで何処か別の場所に意識が奪われているような。
伸ばしかけて触れられず、宙に浮いたままの手。
何を惑っているのだろう。
はっとして、女の子はその手を伸ばした。
「落ち着きなさいな、総司さん」
細い肩を掴むと、存外に強い力で振り払われた。
軽く後ろへ飛ばされた女の子はぎりぎりと奥歯を噛んで、苛立った顔をした。
これでは駄目なのだ。
次の瞬間、女の子は沖田の右頬を打った。
乾いた音が響く。
「落ち着きなさいな!咳が止まらなくなるわ!」
剣のある厳しい口調で言い放つ。
……病人を本気で叩いてしまった。
大丈夫だろうか。
女の子はおずおずと話しかけた。
「総司さ……」
「土方さんっ」
沖田は女の子の両肩を強く掴んだ。
骨の軋むような音がした気がして女の子は悲鳴を上げた。
痛い。
「総司さん、離してっ」
「土方さんが、死んじまう」
沖田が何を言っているのか、女の子には全く分からなかった。
沖田の顔には恐怖と悲痛がべったりと貼り付いていた。
たった今迄その場に居合わせていたかのような。
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