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「離してっ!離してっ!」
甲高い声で女の子が叫んだ。
「……っ」
痛みで歪んだ女の子の顔を見て、沖田はやっと目が覚めた。
手を離すと女の子は痛そうに両肩を抱きしめていた。
「ごめん……」
人間ではないとはいえ、体のつくりは自分より年下の女の子のものなのだ。
そして自分より体格の良い大人にこんなことをされて怖がらない子がいるだろうか。
「悪かった!すまない!怪我してないか?」
小さな肩に触れようとした沖田は、突然胸の底から湧き起こった痒いような、重いような感覚に背中を曲げた。
咳だ。
いつもより酷い。
「総司さん?」
痛がっていた女の子は、いつもよりずっと苦しそうな沖田の姿に眉根を寄せて険しい顔をした。
顔を覗き込んだ。
……ごぼっ!
体の内側を破いたように。
真っ赤な血が畳に吐き出された。
「総司さん!」
血を吐いても咳は止まらない。咳をするたびにぽたぽたと血が零れる。
錯乱して叫んだのが肺に障ったのだろうか。
「待ってて総司さん!今おばばを連れてくるから!」
駆け出した女の子は、しかし何かに引っ張られる。
尻餅をつきそうになったのを踏ん張って耐えて、振り返った。
着物の裾を沖田が強く握り締めていた。
「すぐ戻るから」
その手を優しく解こうとした女の子に沖田は呼吸を乱しながら何か言った。
「土方さんが……」
先程から土方土方とそればかり。
「人のことよりっ」
自分のことを考えな、と続けようとした言葉を遮って沖田は必死に言葉を繋いだ。
「こ、近藤さんっ……先生も!」
みんなみんな。
「みんな死んじまうっ」
急に力が抜けた。
かく、と沖田の体が横に倒れた。
「総司さん!」
物悲しい女の子の声を聞いた気がしたけど、それきり沖田は何も見えず、また何も聞こえなくなった。
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