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「むごいことするわ」
誰かが同情して言った。
橋の上、立札と共に晒された首はまだ若い男のものだった。
その男のことをこの町の人々はよく知っていた。
江戸からやって来た田舎者。
後に新撰組などと大仰な名前を与えられた若き男達。
血生臭い事件を数多く起こした野良犬共。
疎む人がいる一方で、彼らがいなければこの町はどうなっていたかと密かに感謝する者もいた。
後世から幕末と呼ばれることになるこの時代。
揺れに揺れたこの国の道をしたたかに、真っ直ぐ歩いて行った彼らの影は、今はもうどこにもない。
あんなにも堂々と道の真ん中を歩いていたのに、今は何処へ行ってしまったのだろう。
首は新撰組の局長、近藤勇のものだった。
目を閉じて静かに眠っている。
よく見ると眉間が苦しかったのかうっすらシワを寄せていて。
あとは本当に、ただ目を閉じているだけかのようだった。
どの人もそそくさと目を逸らしていってしまう。
少し前までこの町は緊張状態にあった。
過激な思想を持つ攘夷浪士が攻めてくる、町が火の海になる、と誰もが噂し合っていた。
中には応仁の乱の再来などと言う人もいて、町を離れた人もいる。
治安も悪く、至るところで暴動や殺人があった。
1つ夜を明かせば、何処かの路地で斬り付けられた遺体が見つかる日々。
しかし、もうそんな心配はない。
未だ遠い北の地方では幕府側の軍が戦をしていると聞くが、それもすぐに帝を擁立する維新側の軍が鎮めるだろう。
時代は変わった。
幕府も、武士も、刀も、新撰組も、旧き時代と新しき時代の間にぽっかりと空いている、大きな溝に落ちて消えるのだ。
そうであって欲しい。そうでなくては困るのだ、と人々はおもっている。
不安も、緊張も、殺戮も、もうごめんだ。
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