真心

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ゆっくりと沖田は目を覚ました。 徐々に色と熱を無くしていく日差しが、部屋を薄暗くしていた。 「起きたかい?」 布団の横にちょこんと座っていたのは例の女の子だった。 「すまねぇ」 乾いた声で沖田は言った。 体は起き上がることを考えられぬ程、重くてだるかった。 「何が」 困った顔をした女の子に沖田は心底申し訳なさそうに、 「肩、思いっきり掴んじまった」 寝ぼけていたんだ、と悲しく笑う。 恐ろしい夢だった。 大切な人達が最悪な死に方をする、見るに耐えない夢だった。 きっと自分がいれば助けられた。 助けられるのに、この体はもう動かない。 あの人達と同じ戦場で散ることも叶わない。 一体自分は何の為にここにいるのか。 そこまで聞いて女の子は淡々と言い放った。 「それはただの夢だよ」 静謐で、無表情。 何を考えているのか分からない顔だ。 「夢?」 沖田は苛立ちを隠さず、反復する。 「もうずっと手紙がない。皆先生は忙しいだの何だの、そればかりだ」 そうだと思っていた。 そうなのだと言い聞かせていた。 でも。 「本当は違うんじゃないか。もうとっくに……」 死んでいるのではないか。 言葉に出来ず、黙り込む。 日差しは一層気配を失い、その分群青色の闇が幅をきかせていた。 薄闇の中、女の子の黄金色の瞳が物悲しく細められた。 くるり。 女の子は沖田に背を向けて明かりをつけた。 群青色の闇は一瞬にして四散した。 明かりの中で女の子はいつも通り、綺麗な顔に何の感情も浮かべないまま、淡々とした無表情だった。
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