真心

3/5
前へ
/63ページ
次へ
ゆっくりと沖田の枕元に腰掛けると、口元と目の端を少しだけ柔らげた。 気遣わしげな、優しい顔になった。 「奥州の方で起きてる、戦のことで良かったかい?」 沖田は女の子を凝視した。 恐らく皆、その場所にいる。 「戦はまだ続いているそうだ」 女の子は目を伏せた。 「それもじきに終わるらしい」 あまりに忍びなくて、女の子は沖田を真っ直ぐ見られない。 「維新軍が優勢と聞いた」 女の子は強く拳を握った。 「すまない」 ぐにゃり、あまりの悔しさに女の子の顔が歪む。 こんな状態の彼に、私は。 「これしか分からなかった」 あとは。 「あとは、どうか総司さんの大切な人達が息災であると、信じることしか出来なかった……!」 女の子が弟のことを話した時の沖田のように。 でも私には何の根拠もないのだ。 なんて軽い言葉だろう。 彼に、何もしてあげられない。 無力さに女の子は打ちひしがれた。 沖田は何もいえなかった。 突きつけられた真実は、沖田の夢が正夢だと告げるようなもので。 でもそれより目の前で苦しんでいる彼女から目が離せなかった。 今、江戸の町は浮かれきっている。 少し前まで打ち壊しだの、戦だのと暗く張り詰めていたのに。 まるで全て忘れてしまったかのように、新しい時代を享受している。 遠い場所で起きている戦のことなど、誰も彼も知らぬふり。 町中歩き回っても女の子が手にできる情報はこんなものだった。 もう少し学があれば、と女の子は悔やんだ。 悔やんだところでもう遅いと分かっていても悔やまずにはいられなかった。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加