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ではどうしたのか、と問い詰めようとして沖田は辞めた。
きっとそういうことなのだ。
聞くなんて野暮だ。
その代わり。
あと少し、と力を込めて手を伸ばした。
滑らかな髪の毛の手触りがする、小さな頭をそっと引き寄せた。
女の子は抵抗せず、黙って沖田の胸に吸い寄せられた。
頭に、大きくて優しい手を感じる。
着物越しのもどかしい温もりと、硬い骨と、少し早い心臓の音。
まるで水の中にいるようだと女の子は思った。
深く優しく体を包み込んでくる、静かで暗い水の中に……。
「ありがとう」
もう1度、噛み締めるように言った沖田の声が、遠くから小さな振動を連れて聞こえてきた。
やはり恥ずかしくて落ち着かない。嫌だ。
でも、ずっとこうしていたい。
ほろり。
女の子の右目から涙が溢れた。
あまりにささやかなそれに、沖田は気づかない。
ただ、綺麗で不思議で優しいこの女の子に、2度と会えないということを心から残念に思った。
残念で、切なくて、幸せだ。
沖田は目を閉じた。
信じる、と彼女は言った。
自分の大切な人達が息災である、と。
都合の良い解釈かもしれない。
自分勝手な妄想かもしれない。
でもこの子が一緒に信じてくれたなら。
それは本当のことになる気がした。
ただ、信じて祈ろう。
今まで出会った、大切な人達の為に。
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