葉桜の頃に

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遠い昔に命を落として以来、私の中は空っぽだった。 怒りと憎しみと悔しさと悲しみと苦しみと、その他諸々の感情。そしてそれを超えるほどの諦めで。 誰とも触れ合わず、心通わすこともなく、徒らに長い時を1人で揺蕩っていた。 ほんの気まぐれの筈だった。 それなのに、何故だろう。今まで他の人間に興味を持ったことなんて無かったのに、気になって何度も会いに行ってしまった。 たった数ヶ月。 季節が春から夏へと切り替わる束の間の逢瀬であったのに、色々な彼を見た。 笑うと子供みたいな無防備な顔になる。 寝顔は安らかで、こちらまで吊られて眠ってしまいそうになる。 苦しむ顔は、この人の体がばらばらになってしまうのではないかと心配になった。 泣くと私も泣きたくなってしまう。 でも、いつだって思い出すのは1番最初に会ったあの月の晩の彼なのだ。 病に蝕まれた細い体に寂しそうな背中。 青白い月を眩しそうに見上げていた、横顔。 何もかも死んでしまったような静謐な夜の中で、彼と私だけが確かに存在していた。 この思い出だけがぽっかりと心に残っていた。 今なら分かる。 私はこの夜から彼に心惹かれていたのだと。
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