片割れ

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「私はね、この子が好きだった」  写真を指差してしのぶが微笑む。  私は驚いて目をぱちくりした。 「この子嫌われてたじゃない」  悪いと思いながらも本当のことを言った。しのぶは、罰が悪そうに呟いた。 「評判がすべてじゃないよ。私、もう一度会いたい」  私は卒業アルバムを見るまで彼のことを忘れていた。  しのぶにもう一度会いたいと思わせるなんて、一体どんな優男だったんだろう……。 「よく考えたら私、この子のこと知らないな。どんな子だったの?」 「うーん、一言で言うとね。変わった子だった」  ますます謎が深まった。  変わり者だったのは皆承知の事実だ。そう思っていて、なぜ? 「あたし、放課後になって皆が帰ったとき、黒板を消していたのね」 「ああ、よく頼まれて消していたね。もしかして、手伝ってくれたとか?」 「ううん。彼は教室で走り回ってた」 「なにそれ!」  容易に想像ができた。  掃除用具入れのロッカーにぶつかって、用具をぶちまけて先生に叱られて。それがいつものパターンだった。 「で? 怒られちゃった?」 「ううん。先生が帰ってくる前に、落書きをし始めた」 「はぁー!」  綺麗にしたばっかりなのに?  いや、さっきから魅力が全然伝わってこないよ。 「彼ね、大きく大きく、羽の絵を描いていた」 「羽? 動物の? ああ、鶏?」 「いーや、天使の羽っていうか。いかにもメルヘンな羽だった」 「なんでそんなものを描いたんだろう。わざわざ」 「それでね、描き終わったら言うのよ。もう片方の羽を描いてよって」 「無茶振り! 描けっこないての」  私はそんな勝手なやつのどこが好きなのか全くわからずため息をついた。それでもしのぶは誇らしげに 「描いたよ」 「え!」 「折角綺麗にしたのにな、って考えはその頃にはなくて。彼が描いた羽の絵の方が何倍も綺麗に思えたから」 「そう、なんだ」 「あたしはね、彼が描いた羽の絵をもう一度見たいの。で、もう片方はあたしが、あのときよりうまく描いてあげたいの」  しのぶの横顔は恋する乙女そのもので、私は息をのんだ。相手が誰であれ、こんな可愛らしいしのぶの恋ならば応援してあげたいと思えた。 「明日の同窓会、この子来るかな」 「そういうとこ、あんまり好きじゃないと思うけどな。いい思い出がないだろうし」 「いーや。案外、しのぶみたいにさ。ずっと覚えてるかもよ? 羽を描いてって言って本当に描いてくれた女の子のこと。会いたいなあって思ってたりして」 「えー、うん。でも、そうだといいなあ」
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