1168人が本棚に入れています
本棚に追加
「付喪神というのは、長く大事にされてきた物に宿る魂だ。
私は此処に捨てられたが、通りかかる者たちに拝まれ、付喪神となった。
だが、その本体が割れた以上、此処にとどまるのも潔くない気がしてな」
美園がそんな話をしている間、倫太郎は木の根元にしゃがみ、なにかしていた。
「直りましたよ」
立ち上がった倫太郎が美園に向かい、急須を突き出す。
美園の急須は黄色のマスキングテープでぐるぐる巻きにされていた。
倫太郎が、メモに印をつけるために持っているテープだ。
「……警察が張る、立ち入り禁止のあれみたいになってますけど」
と壱花は呟く。
っていうか、社長……。
せめて、接着剤で……と思ったが、まあ、そんなもの持ち歩いている人間はなかなかいない。
これが精一杯の修復方法だったのだろう。
美園は、かえって無様になってしまったおのれの姿を見下ろしていたが、やがて笑い出した。
最初のコメントを投稿しよう!