二 知らぬが仏だったかも

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二 知らぬが仏だったかも

 古井根の正体を知ってから、二週間経つ。俺は古井根と話す時には、古井根と呼んでいたが、心の中では勝手にキュービーというニックネームを付けていた。九尾の狐だからキュービー、分かり易いだろう。  キュービーは無職の俺を『古井根企画』の社員という形で雇ってくれた。何も言わなくても、俺がプー太郎だという事は出会った初めから知っていたようだ。何故知っていたかなんて事は考えなかったし、聞きもしない。何せ人知を超えた存在だから。  古井根企画には、俺の他に池畑祐子(いけはたゆうこ)という女子社員がいる。今、二十三歳だ。二年前から勤めているとの事だから、俺にとっては先輩という事になる。予めキュービーから彼女は人間でキュービーの正体は知らないから宜しくと釘を刺された。  何で、俺にはあっさり正体を明かしたのか聞いたが、宿縁だと笑うばかりである。  キュービーからは、給料の支給を受けたが、俺のやってる事は例の社の掃除以外ない。心苦しいので、何か手伝える事はないだろうかと申し出た。キュービーは暫く悩んでいた様子だ。 「私の取り扱ってる仕事は結構危ない事柄が多いのですよ。」  そう言いながら、キュービーは俺の顔色を見ながら、どうしようかこうしようか考え込んでる様子だ。言い忘れてたが、池畑女子社員のいない古井根企画で二人きりの時だ。 「ううん、まあ、いざとなったら、土橋さんの身は私が守れば良いか。所詮、相手は人間づれ。この私の敵ではない。」  キュービーはこう呟くと、 「その内に、幾らか手伝ってもらう事にしましょう。」  と微笑んだ。それから、 「ところで、念のためですけど、土橋さんが私の事を心の中でどう呼ぼうと良いですけれど、人前では決してキュービーなどとは呼ばないで下さいね。」  と言われた。魂消るぜ、やっぱり心の中が見えるんだ。  それから、数日経ってからの事だった。何時ものように社の掃除を終えてから、古井根企画に出社するとキュービーが側に寄って来た。 「今日はちょっと人に会う予定が有るので、一緒に来て下さい。仕事です。」  とキュービーが言う。何時もいる池畑女子社員は席を外しているようだ。 「池畑さんなら、ここで使っているコーヒーやお茶の買い出しに行ってもらっています。」  俺の心を読んだのだろう。キュービーは付け加えた。それから、ホワイトボードに『古井根、土橋外出中。急用有れば要電話。』と書き込んで、事務所に鍵を掛けて外に出た。駐車場に行くと古井根の愛車(かどうかは解らない。)に古井根は乗り込み走り出す。俺は黙って助手席に座らされた。俺の古井根企画への通勤は自転車だ。勿論、車の運転くらいは出来るのだが、キュービーがハンドルを握って、助手席を示すから仕方ない。
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