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「そうなんだ。」
「まあ、人間づれが私の事をどう思っていようと知った事では無いですが。」
おいおい、俺も人間なんだけど。
「ああ、別に人間が嫌いなわけではないですよ。愚かすぎて、好きになれない奴も居るけど。それに私と土橋さんは特別な縁なので、変なふうに思わないで下さいよ。」
俺の心を読んだのだろう。ちょっと慌てたようにキュービーが付け加えた。
「思わないよ。それに今のところ、俺にとって古井根さんは神様だから。」
「神様ですか。」
「だってそうじゃないですか。社のご本尊だし。」
「ああ、なるほど。」
「あ、又疑問が湧いて来た。何で日本に居るんです。元々中国に居たはずですよね。」
「流れ流れて・・・・・・・というか、私に言わせれば、私の棲家はこの地球とでも言いたいところで、区々たる一地方に留まりません。」
「なるほど、そう言われると俺の了見の狭さに気付きます。」
「でも、日本は好きですよ。この国くらいガヤガヤと神様が居る国は無い。それに狐を祀ってある国なんてあまり有りませんからね。」
自分では狐ではないと言いながらも、狐が神様として祀らている事は悪い気がしないらしい。
その後は、世界の歴史についての雑談になった。キュービーは博識だった。そりゃそうか、周王朝の昔、いやきっとその前から生きているのだから。
二時間ほど車を走らせると道路ぶちの雑木林に車を止めてそこからは二人でとある岬の展望台まで歩いて行った。
「さて、約束の十三時だ。」
時計も見ずにキュービーはそう言った。俺が確認してみると、ぴったりその時間だった。
人気の無い展望台に一人の男が立っていた。ボルサリーノ風のソフト帽に黒いサングラス、花粉症対策のマスクをしている。人相を特定されない為だろう。濃い灰色の背広上下で、右手にアタッシュケースを持っている。俺は緊張を隠しながら男を注意深く見た。微妙ではあるが左肩が不自然に上がってる気がする。
ふと、子供の時に読んだ漫画を思い出した。題名は言わないが、銃撃戦満載アクション漫画だ。その中で、登場人物が見かけた人間の左肩が微妙に上がっているのを見て、『あれは、左脇に拳銃を吊して居るんだよ。素人には解らないだろうが、拳銃の重さは二キロ近い。吊してる反動で無意識に肩が上がるんだ。」と言うシーンが有った。まさかその男は拳銃を持ってるんだろうか。
キュービーはツカツカと男に近づいて行った。俺も後に続いた。
「鯨は見ましたか。」
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