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そうなんですか。でも、売り出せば瞬く間に大金が転がり込んで来るでしょう。」
「ふふふ、あんな物が世の中に出回ったら、それこそ大騒ぎになってしまいます。くれぐれも漏らさないで下さいね。」
相変わらず笑みを崩さないキュービーだが、俺に対する信用は不思議に思う。勿論、誰にもバラす気はない。命も惜しいもの、何たってキュービーには逆らえないのだ。
「そうそう、もうあの薬の服用は良いですよ。と言うか、昨日で渡した分は切れてるはずですよね。」
そう言えば、もらった分は昨日で品切れだった。
「もう十分に強くなってるはずです。そんじょそこらの人間づれには害される心配は有りませんからね。」
キュービーはそう言って又微笑んだ。人間づれねえ、俺も人間づれなんだけど、この厚遇は何なんだろう。気味が悪いものがあるけど。うーん、社の掃除だけにしては、御利益有り過ぎる。
「さて、今日はちょっと仕事してもらいましょうか。」
キュービーは、俺にとある墓地に行って金を取って来るように言った。
墓地に金、墓荒らしかと一瞬躊躇したが、そうではないとの事なので、早速、俺は会社のバンに乗って指定された墓地に向けて出かけた。
予めキュービーから注意されていた事なのだが、その金を持ってくるのは最近夫を急性心臓麻痺で亡くした若い未亡人で、四十九日がようやく過ぎたところ、かつ又、夫には多額の生命保険がかかっており、保険会社の調査員が監視中であるから、夫人にも調査員にも姿を見られないように注意するようにとの事であった。
俺は、墓地から百数十メートル離れた草むらに身を隠して、高倍率の双眼鏡から墓地を窺った。ほどなく、三十過ぎの着物姿の婦人が現れ、真新しい墓石の掃除に掛かった。高額生命保険が掛けられて死亡した人物の未亡人の御多分に漏れず、人目を引く美人であった。何にしろ、掃除は良い事だ。
やがて墓石に手を合わせ、しばらく佇むと婦人は駐車場に止めてあった自家用車に乗り込んで去って行った。
婦人の墓参りの間付近を双眼鏡で見回していた俺は、道路脇の白い普通乗用車から、俺とご同様に双眼鏡で明らかに婦人を見張ってるらしい二人連れを見付けていた。恐らく、生命保険会社の調査員だろう。予め、キュービーが予言してくれていたので、容易に見付けられた。向こうは俺がこうして見張っている事など気付きもしてないはずだ。
連中二手に別れて一方は墓を見て回るのではと心配したが、杞憂だったようだ。キュービーもその確率は低いと言っていたが、流石千里眼である。奴等は婦人の車を追い掛けて走り去って行った。俺は随分用心して二十分程、様子を窺った後、件の墓に向かった。墓石の裏側に回ると、紫の袱紗に包まれた札束が有った。百万円の札束が十有った。
それを持って、古井根企画に帰社した。キュービーは受け取ると、事務所のでかい金庫を開けてしまい込んだ。
「聞いても良いかい、社長。それって、ひょっとして保険金殺人の謝礼?」
俺は小声で聞いてみた。壁に耳あり障子に目あり縁の下には何とやらだが、キュービーからは事務所の防音設備及び盗聴盗撮防止は完璧だから、二人きりの時は際どい話も大丈夫だと太鼓判をもらっている。
「当たらずとも遠からずと言うところですかね。さっきのは、急性心臓麻痺を起こさせる薬の代金ですね。検視してもバレない優れ物ですので、高価です。」
あっさりと言われて、俺は引いた。キュービーはそんな悪事の片棒も担ぐのだ。元々妖狐だしなあ。
「まあ、そう気を悪くしないで下さいよ。私、別に善の神じゃあないですから。」
俺の引きように、キュービーは不味いと感じたようだ。
「弁解するわけじゃないですけど、殺された男も相当な悪でして、三人も人を殺してる奴でしたし。もっとも未亡人は知らないでしょうけどね。」
「そうなんですか。」
「一昨年くらいに、市内の女子高校生が三人立て続けに行方不明になってて、未だに解決してない事件があったでしょう。結構騒がれたはずだけれど。今回、保険金殺人の犠牲者になったのはその誘拐犯ですよ。」
「・・・・・・・。」
殺された奴も悪党だったと聞いて、俺も少し気が楽になった。
「そうなんだ。何かそんな事件有ったような気もする。身代金の要求も何もないので、犯人の動機すら、想像できないって話だったかな。」
「その男は悪魔崇拝の宗教団体の一員で、被害者達は生贄として殺されてます。ただ、団員達に骨まで食べられて、死体は一部分も残ってませんけどね。」
キュービーはスラスラと話してくれるのだが、俺は胸が悪くなって来た。
「そんな男でも、惚れた女にはコロッと騙されて、高額生命保険には入らされるは、一服盛られるはと、他愛ないものですねえ。」
キュービー小気味良さげに小さく笑っている。
「そうすると、あの未亡人が一枚上手の悪党という事になるのかなあ。」
「さあ、どうですかね。婦人は殺した男が、恐ろしい宗教団体の団員とは知らないようですけど、団員達が大人しく引っ込んでいるかどうか。」
「えっ?」
何やら、このままでは終わりそうに無さそうだ。恐ろしい事がまだまだ続くのだろうか。
数週間後、俺はキュービーに又仕事を命じられた。例の未亡人が男と外出するはずだから、見張るようにと。
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