三 闇の又闇

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 かの婦人はこの都市の高級住宅地とされる地区に結構広めの庭を持つ、日本建築の贅沢な屋敷に住んでいた。元々は死んだ夫の持ち物なのだろうが、閑静な住宅街なので、店舗の類いはほとんどなく、長い時間車を止めていると目立つなあ、と困惑しかける間もなく、一台の高級外車が現れて、婦人は待っていたのだろう、直ぐ玄関に現れて乗り込んだ。  キュービーから受けた事前情報では、相手は不動産会社の社長らしい。死亡した人物の所有する雑木林を宅地開発する目論見が有って、保険金殺人にも一枚噛んでる、と言うか、婦人とは不倫の関係、早い話が間男らしい。  二人きりの車は、その宅地開発予定の雑木林に向かう予定だ。それが分かっているなら、先回りして雑木林で見張ってれば良いではないかと言われるかも知れないが、キュービーの指示だから仕方ない。  やがて、二人は雑木林に到着した。呼び出したのは死亡した人物から当該土地の管理を任されていたと称する人物らしい。俺は双眼鏡で遠目にみていたが、二人が車を降りると、何と十数人の男達が現れて、二人はアーもスーも無しに拉致されて、雑木林の中に連れ去られてしまった。  俺はその連中に気取られないように後を付けた。雑木林の中に入ると、教会っぽい建物が建っている。蔦の絡まる結構古そうな建物だ。連中は二人を引き摺って建物の中に入って行った。二人はもうその頃には、探偵小説でお馴染みのクロロホルムでも嗅がされたのかすっかり意識を失っているようだった。入口に一人見張りと思われる男が残った。  俺は遠回りに建物の裏側から回り込んで、その見張りの首筋にテガタナを喰らわせて昏倒させた。この一月の間に得た護身の技は伊達じゃ無かった。それから、男の上着を物色して携帯電話を見つけ出した。指紋を残さないようにちゃんと手袋はしている。 「もしもし、すいません。今目の前で、人が殺されそうになってます。大変です。大勢の人達が寄ってたかって・・・・・・・。」  その携帯電話で百十番通報して、電話は掛けっぱなしにしてその場を大急ぎで離れた。  やって来る警察と鉢合わせになるのも怖いし、指紋は大丈夫だとしても、今はディーエヌエー検知も有るしなあ、と少し不安だったが、キュービーは心配ないよって言ってた。そんなに早く警察は動かないし、ディーエヌエー鑑定なんて余程特殊な案件だよと。  兎に角、飛ぶようにしてして事務所に戻った。  その数日後から、新聞、雑誌、テレビの大騒ぎだった。悪魔崇拝の宗教団体の秘密の儀式の真っ最中に警察が出くわして、殺害現場で十数名の容疑者を現行犯逮捕したと大々的な発表が有り、各容疑者に詳しい事情聴取を行っているとの事だった。報道で確認したのだが、例の未亡人と間男は警察到着時点では既に帰らぬ人となってらしい。間に合わなかったわけだ。  キュービーによれば、教団があの二人の殺害に及んだ直接の理由は、雑木林の宅地開発計画に有ったらしい。教団の秘密教会が暴かれる事を防ぐための時間稼ぎにあのような凶行に及んだとの事である。
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