野獣教師の誕生

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野獣教師の誕生

(序)野獣の登場    ここはアフガニスタン。アルカイダやタリバンが暴れ始めた頃、ムスリム・ディフェンス・アーミーというテロ組織があった。実際にはアルカイダの戦闘組織であった。  アフガンには、昔ソ連軍が侵攻してきて、暴虐の限りを尽くしたことがあった。そこで、ソ連に対抗させるために西側諸国が支援していたテロ組織である。しかし九・一一以降はアメリカによって狙い撃ちされる対象になっていた。  康祐は、ロシアから空路アフガンへ入り、この組織に捕えられた。しかし、康祐が武道の段を六段持っていることが分かると、彼らの態度は急変し、ここの戦闘員になった。そして、イスラム教に沿った生活を送ることになった。断食やお祈りなども行った。このテロ組織はイスラムに反する連中を殺すために結成されたものだったのだ。  それからの康祐はあたかも爬虫類のように「殺す」ことに快感を覚え始めた。女子供だろうと容赦はなかった。  ある日、康祐達は学校を襲撃した。女子教育が行われているという情報が入ったからだ。女性が教育を受けるなどと言うことは、イスラムではあってはならぬことである。  二十名ほどの戦闘員が旧ソ連製のAK(アーカー機関銃)を手にジープに分乗して学校へ向かう。学校へ到着したら、堂々と玄関から入り、AKを連射する。  瞬く間に学校は阿鼻叫喚の地獄と化す。  一人の兵士が教室のドアを蹴り破った。女性教師が数十名の男女の高校生に授業を行っていた。日本と違い、女生徒はテロリストからの攻撃を考えてベールを被っている。「私はイスラムの教えに忠実です」ということを示すためである。しかし、女が教育を受けるなどと言う忌まわしいことを彼らは許すわけがない。  康祐は何の躊躇もなく女教師の眉間をトカレフで撃ち貫いた。  女教師の頭から出血し、脳味噌が飛び散るとともに悲鳴がこだました。  続けざまに何人かの戦闘員が教室でAKを乱射した。机の下に身を隠した生徒もAKには太刀打ちできずに倒れ伏した。  一人の女子生徒が康祐の足元に倒れ込んで命乞いをした。先ずはパシュトゥー語で、次いで英語で「Help me」と微かに言った。中央アジアに特徴的な目鼻立ちのはっきりとした美人であった。その子は奇麗なドレスを着こみ、その上にベールを覆っていた。康祐は、その少女の下腹部をトカレフで撃った。  「UGyaーーーーーーーー!」  少女は余りの苦しさのためにのたうちまわり始めた。命が取れなかった悔しさから、康祐はとどめを刺そうと女生徒の頭にトカレフの照準を合わせると、一人の戦闘員が康祐の腕を上から押さえ、康祐を制した。どうせ死ぬから放っておけと言うことだろう。何か英語で言ってはいるがよく聞き取れない。  しかし、康祐はその戦闘員に言った。  「I must kill her!」  そしてトカレフの照準をまた女生徒の頭に合わせた。  戦闘員はまたもや康祐の腕を上から押さえ、ピストルの発射をやめさせた。  彼は少女を撃たなかった。そして下手な英語で再び康祐に言った。  「もういいからよ。JAPの旦那」  「やめておけ、JAPは殺すことにしか興味がないようだぜ」  別の戦闘員がパシュトゥー語で言った。  「お前ら、本気で戦っているのか?」  康祐は不甲斐ない戦闘員達に向かって叫んだ。  そう。もしもこの少女を生かしておいたりしたら、我々のことが知れてしまうのである。  殺すことしか念頭になかった康祐が声を荒げると、その瞬間に少女は事切れた。  その少女を見て---康祐は勃起していた。  康祐の奇妙な性癖が顕わになったのはこの日からである。  「本当に死んでいるか確かめてやる」  康祐はそう言うと、少女の腹を何回も蹴った。柔らかい少女の肌の感触が伝わってきたが、少女は動かなかった。腹を蹴るたびに女生徒の頭がピクリと動く。その様は実に美しかった。康祐は死体というものがこんなに美しいものだとは思ったためしがなかった。しかし、この少女の死体は実に美しい。康祐は死体を蹴るたびに恍惚感に浸っていたのだ。  「女の死体の腹は蹴れば蹴るほど味が出る。どうだ、何か喋ってみろ。この死体め」  そう康祐は思った。イカレテいたのだ。大体、死体なんて言うものは、すでに有機物ではないのだ。しかし、康祐は、そのさっきまで有機物であったものが無機物になっていく過程にたまらない美を見出したのである。    また、ある日のことである。  康祐らの山中のアジトに何者かが侵入した。銃声が聞こえた。  康祐は慌てて洞窟を出ようとすると、別の兵士に制せられた。  そしてゆっくりとトカレフを手にとって暗闇の中で聴き耳を立てていた。男が見つかった。仲間がトカレフで男の頭を撃った。康祐ともう一人の兵士が男の顔を確認した。薬屋の店主であった。テロリストにテロをやろうというのだから、相当なつわものである。きっと旧ソ連のスパイだったのだろう。  すぐさま復讐が始まった。  兵士達が手に手にAKを持ってジープに分乗して薬屋へ急行した。全員覆面を被っている。道々で一般人が恐怖のあまり身を隠す。  薬屋へ到着した。  康祐達は客であろうと店員であろうと構わずにAKを連射した。一瞬の出来事であった。中にいた人達は皆銃の犠牲になった。  みんな死んでしまったことを確認した康祐はトランキライザーをふんだくり、バリバリほおばり始めた。康祐には精神の病があったのだが、ここでの薬は家が買えるほどの貴重品だったのだ。トランキライザーなしでの生活というのは康祐にとってはまさにサバイバルだったのである。  泣き叫ぶお母さんの目の前で子供を殺したこともあった。村を攻撃した時のことである。お母さんがパシュトゥー語で助けを乞うているようであったが、康祐は構わずに子供達をAKで射殺した。哀れに思ったのか、康祐はお母さんもついでに天国へ送ってやった。村が一つ全滅した。            *  やがて康祐のビザが切れる日がやってきた。アフガニスタンのビザではなく、ロシアへの入国ビザだ。康祐は合法的にロシアへ入ったのだが、その後のアフガニスタン入りは全く非合法なものであったのだ。税関をすり抜けられたことが奇跡としか言いようがない。こうして、康祐は仲間に惜しまれつつカーブルの空港を後にした。土埃の匂いが体中に染み着いている。康祐の寝起きの場所が洞窟だったからである。生活に必要な物は「奪う」という習性も身についてしまっていた。    康祐はロシア経由で日本に帰った。シェレメチェボ国際空港を出発する時、「人殺しもこれで終わりか」という奇妙に郷愁めいた感情が沸き起こった。  康祐の職業は高校の教師。しかし、精神に異常をきたして校長から一年間の休職を言い渡され、今では許されないことであるが、「まあ、外国へでも行って来い」というので、ロシアへの片道の航空券と就学ビザを取って、「ロシア語の勉強」という名目でロシアへ渡ったのであった。そして、偽造のビザでアフガンへ入り、そこで「殺し」の快感を覚えて帰ってきたのだ。  帰国後、復職の目途はまだ立っていなかった。  そこで、康祐は町へ出かけ、乱暴狼藉の限りを尽くした。  元々の康祐は飼っていた猫が死んでも泣いてしまうような優しい心の持ち主であった。  しかし、長年やってきた武道とアフガンでの生活が全てを変えてしまったのだ。  夜な夜な愛車のクラウンで康祐は町に出没する。チンピラとの喧嘩が目的だ。  康祐は古武道二段、居合道二段、空手初段、合気道初段である。チンピラの二人や三人は敵ではなかった。その上に、防弾チョッキとスタンガン、催涙スプレーを常に携帯していた。  先ずは、クラウンで蛇行運転をしたり右側通行を行う。チンピラの車とあわや接触しそうになる。チンピラが降りて来る。  「こら、おっさん。危ないことさらすやないか?わしらに喧嘩売っとんのか?」  「ああ、売っとんのや。何で分かった?」  「何ー?こら、おっさん。ぶん殴るぞう」  「おお、ぶん殴ってみろ」  すると、先ずは弱い奴がのこのこと出て来る。これが狙い目だ。そいつの足をめがけて康祐得意のローキックが炸裂する。男は倒れる。即、強そうな奴が出てくるので催涙スプレーをかける。  「わー。目、目、目が見えへん」  次にスタンガンをお見まいする。呆然としているチンピラども全員にスタンガンの電気をおみまいするのだ。  「うぎゃー」  後は仕上げ。次々と蹴りや突きを入れていき、息の根を止める。  しかし、これで終わりではない。ゲームの仕上げが待っている。  一番強そうな奴の顔を踏みつけて、モデルガンで狙いを定める。回転リボルバー式の銃だ。  「お前はロシアン=ルーレットを知ってるか?ここに一発弾を込める。次にこれを回す。先ずは俺からや」  康祐は自分の頭に銃口を向ける。カチッという音が聞こえる。  「バキューン。へへへ、死ななかったなあ。次はお前や」  そう言ってチンピラの口の中へ銃口を入れる。  「うぐぐ、助けて」  「えへへへへ。俺はなあ。アフガニスタンで女子供でも殺してきたんや。村を全滅させたこともある。泣き叫ぶお母さんの目の前で子供を殺したこともある。学校も襲撃して先生と女生徒を天国へ送ってやった。それからは殺さずにはいられないんや。殺すことは楽しいなあ。この引き金を引いた時、もしも弾が入っていたらお前は死ぬんや。死ね」  「おい、こいつキ○ガイや。警察や、警察」 チンピラどもはそう言って逃げて行く。  康祐はすばやくクラウンを発進させてその場を立ち去る。  こんなことの繰り返しであった。今でも不思議なのが、一回も警察のお世話になっていなかったことである。    これが康祐の日常であった。だから普通の人間が持ち合わせている「優しさ」なんか微塵もなかった。凶器が町を闊歩しているようなものである。
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