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「お前さぁ、今日プール休んどったやろ」
「うん」
「……見た?」
「見たよ」
「マジか。柄教えろよ」
「苺」
「うっほー! 小林さん王道かよ! パンツまで王道かよ!」
「というのは嘘で、苺は委員長のパンツ」
「てんめっ……俺の純情弄びよって……っ」
青筋たてた彼の笑える怒り顔に、瞬きひとつ。
「金持ちになりてぇなぁ……金が欲しい」
「欲しいね。世の中所詮金ですよ、金」
「よっしゃ、やっぱ俺プロ野球選手になるわ」
「じゃあ僕はベストセラー作家だな。てかプロに行くようなやつがこんな所でランニングサボってていいの?」
「ちっちっ……サボりじゃない。他の奴らがあんまりにも遅いけん、ちょろっとハンデ与えてやっとるだけや」
「なんちゃあ意味わからん」
「ぶっ! なんじゃそのわざとらしい方言。めっさ腹立つ!」
「君らの言葉が難しすぎるんだよ……」
「まぁそれはええ。ほんじゃ例えばよ、お前今ここに大金あったら何する?」
「足の臭いに効く塗るタイプの消臭剤一生分買う」
「切実ー」
遠い目をして鼻をつまむ、彼の心底腹が立つ顔に、瞬きひとつ。
「……今はなんの話書っきょん」
「今? あぁ……今ね。すごいやつ。多分僕これでデビューしちゃうんじゃないかな」
「ほほー、作家先生パネェっす。すげぇのぉ。どっから湧いてくるん? ストーリーとかって」
「僕くらいになったら物語の方から書いてくれと頭を下げてくるんだよ」
「ぶっ、どんだけや! あぁ、ほんなら先生、俺がプロ野球選手になるサクセスストーリー書いてよ」
「嫌だ」
「なんでぇ」
「絶対小林さんを女子アナにしろっていうだろ。先が見えてる」
「はは、バレてら。辛辣ー」
「……」
「……なぁ」
「……うん?」
「……くだらんな」
「……くだらないね」
どちらからともなく吹き出し、腹を抱えて大笑いした。そんな、ずるいくらい眩しい笑顔に、瞬きひとつ。
ふたつ、みっつ
よっつ…………
────よっしゃ俺、そろそろ行くわ!
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