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一番ラストを走る野球部の1年生が後ろを走っていく頃、彼は腰を上げる。その一番遅い1年生の出す、いかにも間抜けな足音が僕は嫌いだ。何も知らない顔で、当たり前のように終わりを連れてくるから。
振り返ればその1年生は、少し離れた場所からゼイゼイハアハアと荒い息を吐きつつ、拙い足をなんとか交互に出してこちらへと向かってきていた。
そんなにしんどいなら、もういっそのこと止まればいい。
なんて思うのに、そんなことを思っている自分もなんか嫌だった。
嫌だった、ような気がする。
そんな1年生にだって僕は、瞬きをした。
「ほんじゃ、またな!」
ポーカーフェイスの奥で寂しさを飼いならしていた僕は、いつも彼のこの言葉に救われる。
僕らにはまた、があるのだと。何度も何度も勘違いさせてくれるから。
彼がいなくなった河川敷で僕は右手に万年筆を握った。でもそのペン先が原稿用紙にくっつく前に、すぐにそれを放り投げてしまった。真っ黒で艶々してていかにもなそれは、河川敷をコロコロと転がり落ちていく。
いっそのことそのままずっと向こうまで転がって、川に流されて見えなくなってしまえばいいのに。
結局そこまで力を入れてないからその辺までしか転がらなくて、立ち上がった僕の視界に上手く入り込み、何だかもったいないから最後には持って帰ってしまう。
いつもこれの繰り返しだ。
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