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冬音の柔らかく温かい手。
落ち着く。
手を繋がれた時はあんなに恥ずかしかったのに。
ニコニコと嬉しそうな冬音の横顔を見ながら考える。
冬音は僕のことが好きなのかな。
もしかして本当に両思い、なのか…
『本当に大丈夫かなぁ』
『大丈夫だって!
嫌いな奴と二人きりでデートなんて行くわけないだろ?』
『んーでもさ、断りにくくて…』
『んなわけあるか!
逆だよ逆。
お前のこと気になってるからOKしたんだよ。』
この会話の直後、夏季講習のお楽しみ授業で「恋の心理学」を選んでいた僕とレンは恋愛面において女性はネガティブに勘違いし、『男性はポジティブに勘違いする』と教えられた。
……。
いらないことまで思い出した。
なんか、損した気分。
あはは…
いや、とほほ…か。
…ん?
突然、冬音が立ち止まる。
その視線の先にはいくつか花が咲いていた。
一本の茎の先から放射状に伸びた花柄に紫や白の小さな花を複数咲かせ、
散り菊のように微かに球を形作る。
木漏れ日に照らされるこの風景の幻想的な美しさに思わず目を奪われてしまう。
花の名前を知りたくなった僕は植物のラベルを探し、
「この花、アガパンサスっていうんだって」
冬音は花を眺めながら答える。
「本当だ。
線香花火みたい。
紫も綺麗だけど白いのも綺麗だね」
「うん」
僕たちは手を繋いだまま、少しの間その風景を楽しんだ。
「お花、好き?」
僕の唐突な質問に冬音は笑顔でこちらを見て、
「好きだよ?」
トクン
顔が熱くなるのがわかる。
そう、僕は彼女の笑顔に照れてしまったのだ。
すぐに目を逸らし唐突にもらったパンフレットにある、大温室の説明を見る。
「ミ、ミソハギと大温室楽しみだなぁ。
あは、あはは」
「面白いね」と冬音はからかうように目を細め微笑んだ後に閃いたように口を開く。
「そうだ!見た植物メモしとこっと」
繋いだ手を離し、冬音はバックから紙とペンを取り出す。
「えーっと、ア ガパン、サスっと…」
僕は手を離された心淋しさから、植物の名前を紙に書く冬音の横顔に話しかけた。
「ねぇ」
「ん?」
「何色の花が好き?」
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