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高校二年生の夏休み。
今日、僕は好きな女の子とデートをする。
夏休みということもあって朝から新宿へ遊びに行くのだが、実はただのデートではない。
なんと、この僕、花苗 璃音(かなえ りと)は帰り道に告白をするのだ!
なーんて、頭の中で自分を勇気付けるが心臓が飛び出るほどに緊張している僕にはほとんど効果がない。
待ち合わせ場所に近付くにつれ、こんなことを考える余裕もなくなっていく。
駅の改札を出て一番目立ちそうな柱に寄りかかり、ぼんやりと時計を見る。
「少し早めについたな。」
ふぅ〜、よかった、心の準備ができる。
何を話そうか考えつつ、淡い水色の空を見つめる。
「ばぁ!」
突然肩を叩かれた僕は、驚いて振り返る。
「わ!びっくりしたぁ」
驚いた僕を見て七葉 冬音(ななは ふゆね)は悪戯な笑顔で喜ぶ。
「あはは、ごめんね璃音くん まった?」
「ううん、全然待ってないよ」
内心、緊張でドキドキが止まらない僕は平然を装い、リードする。
「よし、行こっか!」
僕たちは早速駅から目的地に向け歩き出した。
……
……
まずい、
何を話そうか、
頭が真っ白で話題が浮かばない。
うーん…
実際よりも長く感じる沈黙の中、
冬音が「今日、そんなに暑くなくて良かったね」と眩そうに空を見上げる。
そんな彼女の問いかけに僕はすぐに答えた。
「ね!これくらいが丁度良いよ」
昨日までは猛暑日が続いていたのだけれど運がいいことに、今日は最高気温27度で気持ちの良い風もある。
近年の暑夏にしては涼しい日だ。
唐突に彼女が声を上げる。
「あ!!そういえばさ数学の宿題見た?」
「ジゴ十?」
「そうそう、ジゴ十」
今回の夏休みに出された数学の宿題。
通称 ジゴ十は先生の都合で数学の夏季講習がなくなり、その代わりとしてプリントが50枚に増やされた挙句、難題ばかりのまさしく地獄と50枚を掛け合わせた今夏、最恐最悪の宿題なのだ。
「まだ終わってないならさ今度一緒にやろうよ」と得意げな表情を浮かべこちらを見る冬音に僕は思わず目を逸らしつつ答える。
「うん、じゃあ次は図書館にでもいこう」
照れる。以外の何者でもない感情が僕の脳を埋め尽くす。
それと、きっとジゴ十に感謝した生徒は僕だけだ、間違いない。
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