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化物が集まる場所
集まっているのは、大小さまざまな影たち。
「ああ、今夜も綺麗な紅の桜じゃ……」
「酒だ〜。もっと酒を持ってこい!!」
「仙人が作ったとされている酒を〜! 飲め飲めっ!! 今夜は飲みまくるのじゃ〜っ!!」
月明かりに照らされて、映し出されたのは、化物。ヒトツメだったり、逆に目がたくさんあったり、頭に角が生えたりしている。中には、顔のないものもいた。
「紅の桜はわたくしたちの好物ですわ。もう、ゾクゾクしますの」
「ゾクゾクするのは、妖力が上がってるからだろう……」
「あら? そんなこと言うものではありませんわ」
女は愉快とでもいうように笑っていた。その女は、腰まである白くて長い髪をしており、薄く開いた口からは牙が見えている。これは、絶対人ではない。
「男に嫉妬して、鬼になった元人間のくせにな……」
「そんな言い方はありませんわ。わたくしだって、もう立派な人喰い鬼なんですわよ」
「そうだな。男ばかり喰らい殺している鬼だったな。だが、人を喰らっていても俺には敵わないだろうな」
男と思われる者は、頭は茶色の烏であった。体も毛で覆われており、背には茶色の翼がある。それは、クチバシをパクパクと動かし、しゃべっていた。
「うるっさいわね。この烏がっ!! その口を開いてみなさい。焼き鳥にしてみんなで食べてしまうわよ?」
「かっかっかっかっ! 面白いことを言うな。……まあ、酒仙が作った酒でも一杯どうだ?」
一本の竹を前に押し出した。それを見て、表情が輝いたものに変わる女。
「ふふふ、誤魔化そうとするなんて酷いわね。でも、そのお酒はいただくわ。一年に一度しか飲めない貴重なお酒ですもの」
「……全部一人で飲むなよ?」
「もちろんですわ。他にたくさんあるのに、一人で飲めるわけがありませんもの」
竹はそこらじゅうに転がっている。赤く染まっている桜の木を中心に。一つとっては開け、透明な液体を注いでいく皆々。もうフラフラになっている者もいれば、饒舌になっている者もいた。真っ赤に顔が染まっている者もいる。
「早くしないと無くなってしまいますわね。さっさとそれを寄越しなさい。烏」
「はいはい。鬼の姫様は随分欲しがりなようで……」
「それは、みんな同じですわよ。あなたもでしょう?」
烏と呼ばれた男は押し黙った。きっと酒を飲みたいのはその人も同じだと思っているからだろう。無言で竹を女に投げ渡し、男は転がっている竹を一本拾った。そして、器に注ぐことはせず、竹から直接酒を飲んでいる。
「まあ! 品のないこと……」
「俺たち化物に品があるない言われてもな。それに、ここは楽しむ場だ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「……そうですわね。今夜は妖力が一番高まる日ですもの。この紅の桜のおかげで、わたくしたちは強くなれる」
女はうっすらと笑みを浮かべた。手に持っている竹から赤い器に透明な液体を注いでいく。器を口元へ持っていき、ゆっくりと傾けた。
「ふふっ、とっても美味しいわ。くせになるわね」
「ああ、そうだな」
月の光に照らされ、赤い桜が花吹雪く。空や月、桜が化物たちを見ていた。
※
死んだ一人の人間がいる。桜の木を背にして、刀で腹を刺された人間だ。その者の憎悪が強く残っていて、桜に影響がでるのだと化物たちの間では言われていた。
禍々しいくらい赤色に染まる桜。陰の者の好物で、陰の者を強くするようだ。それは、光を陥れるためかもしれない。人の憎悪が年月を経ても残っているのは、恐ろしいものだ。そう笑いながら言う化物たちがいた。
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