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4月下旬の日曜日。登山口にはまずまずの人が集まっていた。
「意外と多いんですね」
「やっとシーズン到来ってとこかな」
2人が到着した登山口は山の中腹にある展望所で、家族連れや往年の登山経験者の姿が見えた。真っ青な青空から暖かな日差しがほどよく降り注ぎ、登山には絶好の天候だった。
聡史たちは軽く体操をして身体をほぐし、履物を登山靴に履き変えた。紐をしっかりとほどけないように結んで、ザックを背負った。ザックのベルトは腰で支えられるよう調整した。初心者の保奈美には解説しながら、ザックの紐が身体にフィットするように締めた。
「初登山だから、一緒に写真を撮りましょう」
そう言ってスマートフォンを近くの登山者に渡すと、保奈美は聡史の横に立った。パシャリと音が鳴り、取られた画像を確認する。背景には遠くにそびえる山頂が映っていた。まるで恋人の写真だ。
「じゃぁ、出発しようか」
聡史はそういうとゆっくりと歩き出した。この山は麦岳と呼ばれる標高1085mの山で、この展望所からは1時間半程度で登れる初心者向きの山だった。登山口のある展望所はすでに600m地点だから、実際には485m登れば良いことになる。とは言っても、途中で急登あり、山頂手前は岩場ありで、気を付けなければならない箇所はいくつかあった。
聡史は何度も登った山だったが、今日は初めての保奈美がいることで、いつも以上に気を張っていた。
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