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「うわーいよいよだ。楽しみー」
保奈美は笑顔で両手でザックの肩ベルトを握り、聡史の後ろを付いていった。登山口を進むと、いきなりの急斜面。ゆっくりと進む。はしゃいでここを全力で登ると、いくら初級の山でもくたびれて、頂上ではへとへとになり、せっかくの眺望がゆとりを持って見れない。何より初めての登山が嫌な気分で終わってしまうと、その後の登山が続かない。何事も最初が肝心なのだ。そんなことを考えながら、聡史はいつも以上にゆっくりと歩を進めた。
そして進んでは後ろを振り返り保奈美を確認した。その都度、保奈美は笑顔で頷いた。その笑顔がとてつもなく聡史を癒した。
保奈美は予想以上に体力があるらしく、最初の急斜面を順調に進んだ。150mほど登ると、しばらく平坦な草原が続く。保奈美は少し息が上がったものの、その表情にはまだまだ余裕が感じられた。
「大丈夫?」
聡史が問うと、
「全然平気!天気もいいし、清々しい!」
そう言って空を見上げた。その姿が森林の風景と重なり、美しかった。
たまには誰かと登るのも悪くない…聡史は心の奥でそう感じた。
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