第1章 世紀の判決 第1節 村上 正人

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「…呪殺か、恐ろしい時代になったな。」 独り言のつもりで吐いた台詞は、千里(ちさと)の耳には届いていた。千里は昼食の食器を洗いながら正人の顔色を伺った。 「呪殺って、人を呪って殺すってことでしょ。なんか凄い非科学的な感じがするけど、何で裁判で認められたんだろ。」 「何でって科学的に証明されたんだろ。裁判ではその方法は具体的には明るみにしてないみたいだけど。昨日の夜に専門家みたいのが出てる番組があって、呪いのメカニズムを語ってたよ。俺にはサッパリだったけどな。てか、千里は科学とか詳しいんじゃないのか?」 「呪いなんて研究しようと思ったこともないよ。そもそも、分野も違うしね。」 そりゃ、呪いを研究したいなんて物好きは早々いないだろうなと考えながら、正人は難しい顔でスマートフォンを眺め、このニュースに対する一般人のコメント欄を読んでいた。 「本当に賛否両論だな。やっとか、みたいなコメントもあるし、呪いに対する恐怖心を書いてる人も多いな。」 「え?あぁ、スマホで書き込み見てるのね。そうよね、私も恐怖心が一番かな。なんかさ、メカニズムが公になったら簡単に呪うやつが出そうじゃない。特にそういう分野に精通してる人なんか試したがるだろうなぁ。」 呪いだらけの世界を妄想し、何とも言えない表情の千里に対し、正人が冷静にフォローする。 「だから今回の被告人は死刑だったんだろ。呪って殺したら即死刑って慣習をつくるんだろうって、ネットのコメント欄に書いてあるよ。ネットニュース見ると、死刑の執行までも今までにないくらい早いらしいよ。」 「…なんだろ、牢屋の中でも呪いが掛けられるとかなのかな?」 「それは恐ろしいな。そりゃさっさと死刑にしなきゃ安堵な生活送れないよな。…さて、こんな怖い話してる場合じゃないな。そろそろ出掛けないと。」 正人がスマホをポケットに仕舞いながら言った。千里は壁掛け時計を確認し、少し慌てながら正人の鞄を手に取り、正人に手渡した。 「気をつけてね。」 呪いの話は忘れてしまったかのような、柔らかな笑顔で千里がそう言うと、「ありがとう、行ってきます。」と言って、正人は玄関を出た。
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