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部屋のインターフォンが鳴る。
「時間だよ。」と呼びに来た男のため、私は玄関のカギを開けた。
「満足したかい?」
私の顔を見て男は尋ねるが、何も言うことが出来ない。
「彰子は引き取って帰るよ。」
男は黙っている私を尻目に
大きめのスーツケースを部屋へ運び入れると、
ベッドルームへと向かう。
そこには先ほどまで私を求めて身体をしならせていた彰子の
残骸があった。
「あーあ。」
と男は言いながら、絞殺痕のある彰子の亡骸を片付け始める。
「あんたもか。」
手際よくベッドから彼女を運び、スーツケースに折りたたむように詰め込むと
男はため息をついた。
「彰子を抱くと、みんなこうなるんだ。」
気にするな、とでも言うように呟く。
「どうせまた蘇る。」
気が付けばシーツに付着していた彼女の体液の痕跡が消えている。
二人の情事など無かったかのように、
まっさらのシーツでメイキングされたベッドに戻っていた。
私がスーツケースの中身に恐々と目を向けると
そこにはこの部屋に入ったときに見た
精巧な人形が押し込められている。
「また彰子を抱きたくなったら、あの店においで。」
男はそう言うと、私をじっと見つめて
ニヤリと笑った。
背筋を冷たい風が吹き抜けていったような気がして、
私は再びスーツケースの中へと視線を戻す。
するとパズルのようにみっしりと隙間なく詰め込まれたケースの中から
彰子は私だけにその姿が見えるよう、首を乗り出し
上の歯を出してハッキリと微笑んでみせた。
この世のものとは思えぬ、美しい微笑みであった。
彼女と目が合った瞬間、魅入られる。
私の意識はそこでプツリと途切れた。
<完>
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