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「これは、本当に人形なのですか?」
見事な黒髪と長いまつ毛、憂いのある表情の彼女は
申し訳程度の布をまとい、ソファに腰かけていた。
シリコン製の肌は、滑らかで
さすがに近くで見ると少々の違和感はあるが
数メートル離れたら、生きているようにしか見えない。
とがった鼻先、吸い込まれるような黒曜石色の瞳。
ボリュームのある口元はブラウンレッドに彩られている。
完璧すぎない美しさが、彼女をより本物らしく見せていた。
「キレイだろう。」
男は自慢するように彼女を私に見せつけてきた。
指先で豊かな黒髪をすくい上げ、
愛おしそうに踊らせながら
頭皮から毛先まで撫でるように滑らせていく。
「触ってもいいですか?」
私は彼に尋ねる。
一瞬表情が曇るが、彼女を見て確認するように頷いた後
「いいよ。」と応えた。
部屋は薄暗く、ベルベット製のソファにわずかばかりの光が反射している。
調度品はかつて日本が華やかだったころの名残を見せており
バブル、と呼ばれていたころの空気をまとっていた。
「人毛ですか?」
あまりのリアルな感触に私が驚くと、
「そうだ。」
と男は言った。
少し固めの髪質だったが、豊かな黒髪は胸まで到達する長さだ。
どこで調達したんだろう?
私は疑問に思ったが、口には出さなかった。
質問してはいけない雰囲気を感じたからだ。
「男の精気を吸って生きているんだ。」
何ともなしに、男はそう囁いた。
まあ、彼女の使用用途からして
そういう発想が出てきてもおかしくはないなと私は思う。
彼女は最新式のラブドールだった。
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