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2話 鞄の中のお守り
目が覚めるとそこはベットの上だった。私は頭が痛む中、眠る前の事を思い出す。...そうか、私 あのまま眠っちゃったんだ。見渡す限りここは普通の部屋だった。少しボロボロになっているだけで、住めないわけでもなく、かといって快適に過ごせるとは言えない所。
起き上がる気力もなく、私は空を見つめた。
多分ここはこの遊園地のホテルの一室...みたいなところだろう。窓から見える景色で2階であることが分かる。あの二人が運んできてくれたのだろうか。気絶から目が覚めて、また早々と倒れてしまうなんて…迷惑をかけてしまった、と深いため息が出た。
それにしても、私は本当に何も思い出せない。昨日...いや本当に昨日なのか分からないが、昨日 サラは、昔の事は覚えてても最近の事を思い出せない私にこう言っていた。
「私達もね、ここに来たときは記憶が曖昧で最近の事が覚えてても、昔の事を思い出せなかったの。ハナちゃんは私達とは逆なだけで時間が経てば思い出すよ、きっと。」
その目は少し寂しそうな色をしていたが、その時の私は 自分の事で頭がいっぱいで気にも止めなかった。今考えると、私もサラと同じような記憶の失くし方をすればよかったのに…となぜか悔しい思いに駆られた。それと同時にイツキの事がふいに頭の中をよぎった。
記憶が戻れば幼なじみのイツキがどうなっているのか分かるのだろうか。私の思い出せる範囲は中学生までの記憶。高校生であろう今、私はイツキと一緒にいたのだろうか。同じ高校だったのだろうか。それすらも分からない状況だった。ふと横を見るとベットの近くの机に私の黒鞄が置いてある。あれを見れば何か手がかりがあるだろうか、そう思いベットから腰を上げイスに座った。そして黒鞄を開くとそこには...。
「あ...。」
黒鞄の中に入っていたのは、空っぽのファイルと筆箱。そして、イツキにもらった赤いお守りだった。このお守りは確か...
『ハナ、このお守りは俺達が離ればなれにならないように、のお守りだからね!もし引っ越しとか受験だとかで離れることがあったらハナはこの袋を、俺は中身の板をそれぞれ持っていよう。次に会うときお互いを確め合えるように。』
イツキの声が頭の中で蘇る。あぁ、そうか。確かそんな話をしていたように気がする。そこで私はお守りの袋を開けてみた。中には板が入っている。
「入ってる...ってことは私達は最近まで一緒にいたんだ...!」
失った記憶に近づけたような気がして私は喜ぶ。他にも何かないかと鞄をあさくったが、それ以外は何も出なかった。筆箱の中にはシャーペンと消しゴム、定規くらいで全てがシンプルなデザインであった。本当に女子高生が選ぶものなのかと疑うくらい。
高校の校則が厳しいのだろうか、と私は思いそれ以上深く考えることはしなかった。いや、考えなかったのではない。それよりもあり得ないことが目の前で起きたために思考を奪われていたのだ。ただ何となく窓を見ただけだった。そこにあるものを見て私は息が止まりそうになる。そこには...
「人...魂...?」
そう。青白い炎の塊のような、まるで人魂のようなものが浮かんでいたのだ。
あの時ある事に気づいていれば、人魂に目を奪われてないで きちんと考えていれば、サラ達にその事を言って2人が何かしら嘘で誤魔化してくれていたら、最後はあんな結果にならなかったのかもしれない…。
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