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3話 人魂の正体
窓に浮かぶソレを見て、私は声も出ず固まるしかなかった。小さく揺れる人魂。美しくも冷たい...そんな印象を受ける。
「あ...や...。」
指先は震え、視界は歪み、何も考えられなくなったそのとき、何を思ったのだろうか、人魂はふと消えた。
次の日。
「...ナ。ハナ !!」
「はっ !ご、ごめんサラ...。聞いてなかった。」
昨日の人魂のことで頭がいっぱいになっていた私は、サラが話していることに気づかず急いで顔を上げた。
「ハナ...大丈夫 ?まだ気分悪い ?」
心配そうに覗きこむサラに私は大丈夫、と笑ってみせる。
「ならいいんだけど...。あぁ、それで続きね。私達の住んでるこのホテルは多分この遊園地のホテル。よくあるでしょ?遊園地のパーク内にホテルがあったり、すぐそばにあったり。だから多分そういう感じのやつなんだと思うの。それで...」
私は今、このホテルの部屋の割り振りについて聞いている最中。ホテルといってもマンションと同じような造り...というか、そっくりそのままマンションだった。1階から10階まであり、すべて階段でしか上がれない。ホテルの真ん中に階段があり、その両側にはそれぞれ2つずつ部屋がある。合計40部屋ある大きなマンションだ。屋上もあるらしいが、屋上へ行けるドアには立ち入り禁止とかかれているらしい。落下防止のためだろうか。それを聞き!この世界のボロさを考えて、絶対屋上には行かないことを心に決めた。ちなみに2階の階段の右側の1番奥がカイト、階段の左側奥から順番にサラ、私となっている。カイト曰く階段を境に男女で分けているらしい。なぜ2階なのかと聞くと、ただ一階よりは景色がよく、3階や4階に上がるのは疲れるため、2階がベストだったらしい。あまりの適当な決め方に少し呆れたが、平和的な考えだったため心が安らぐのを感じた。
「と、ここまででいいかな?ハナ、大丈夫?わかった?」
「ん...あ、あぁ !うん !分かりやすかったよ。ありがとう。」
焦って作り笑いをして返事をした私を見て、サラは何か言いたそうに私を見、気まずそうに視線を横に流した。それを見たカイトは はぁとため息をつき、こちらに向き直る。
「あのなぁ、そういう態度が1番気になるんだよ。何かあるなら言えよ。何か知らねーけど気になる事あんだろ?…ほら、ここを出る糸口にもなるかもしれねーし。」
2人にあってまだ日は浅いが分かったことがある。カイトは多分すごく鋭い。この人に隠し事をしてもすぐに分かってしまうだろう、と私は感じるのだ。それでいて優しい。不器用に優しい人。
「...うん。あのね、昨日 部屋で休んでたの。そしたら、その、見間違いかもしれないけど、人魂が浮いてて...。夢なのかもしれない、あり得ないって思ったんだよ ?でもやっぱり気になって仕方なかったの。」
『人魂』そう言った瞬間、場の空気が凍ったように感じられた。が、次の大爆笑で私はただの自分の勘違いだと思い、気にとめなかった。
「あははっ !まぁそりゃな、最初はビビるわ !でもな安心していーぜ。それ多分蝶の魂だ。」
それを聞き、まさに私の頭の中はハテナで埋め尽くされていた。何の魂であろうが死んでいるのだ。怖いと感じないのだろうか ?
「やーやー、わりぃな。分かんないんなら
しゃーないわ。あのな、この世界で死んだら
お前が見たように人魂になってここを彷徨うんだよ。多分、この世界に出口はない。だから死んだ魂もここから出れないんだ。だからここに居続けるしかない。最初は怖いだろうが慣れならそんな事ねーぞ。なぜこの世界の虫は蝶しかいないのかは気になるが、所詮虫だ。虫は自分が死んだことに気づかない。だからここにいる限りあいつらにとっては生きるも死ぬもあんま関係ねーんだよ。その人魂、近くで見てみな。多分大分小さいからな。人じゃねーんだ。そんな怖がるもんじゃねーよ。安心しな。」
人の魂ではないことには安心できたが、それは蝶でも同じでは...と心の中で思った。つまりは同じ魂。そう考えるとやっぱり恐怖心は消えないな。2人のようにこの世界に慣れてくると、そういうことにも慣れるのだろうか。カイトの笑い声に少し安心しながらも虫の魂は何でもない、と言いたげな彼の姿になぜか少し悲しみを覚えた。そして私が見たあの魂...。遠かったが蝶の大きさにしては少し大きくはなかっただろうか。蝶にも種類が様々あるように、魂にも種類があるのかな。それに…死んでもここから出られないということが証明されたようにも感じる。
私はこれ以上考えるとまた怖くなってくるのでは と思い、それ以上考えることをやめた。
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