4話 突然の怒り

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4話 突然の怒り

この世界へきて、どれくらいの月日が流れたのだろう。自分が寝た数を数えてみると、約1ヶ月が経っていた。 こんなにも長くこの世界にいれば嫌でも慣れてしまう。ここは不思議だ。喉は渇かないし、お腹もすかない。ただあるのはボロボロの建物に、毎日満開の彼岸花のみ。生き物といえるものは私達の他、蝶の魂だけだった。 廃墟の遊園地は私が夢から覚める時間と同じくらいの時間で音楽が流れだし、観覧車やメリーゴーランドなどが動き出す。誰も乗っていないのに動いているジェットコースターはまるで空を切り、暴れる龍のように見えた。 この世界で、脱出方法を考える以外することのない私達は毎日がとことん暇であった。おはようの挨拶を交わした後、何もすることがない日は、カイトは部屋で寝て、サラも部屋へ戻り、私は外で歩き回る、ということの繰り返し。私も部屋で寝ようかと考えた日もあったが、なぜか落ち着かなく、この世界を散歩することとなった。しかし、この日はサラが珍しく私と共に散歩すると言いだした。 「珍しいね、サラが私と一緒に散歩だなんて。」 サラはこちらを見て、優しく目を細める。 「いつまでも部屋にいては暇だもの。それに今まではカイトしかいなかったから女子だけの会話もしたかったし。」 中々見せないサラのいたずらっ子のような笑みを見て、私は心が温かくなるのを感じる。 「何か不思議...サラといるとね、心が温かくなるの。安心感、みたいな。」 「うれしい。私もハナといるとそんな気分になるわ。」 「本当!?...ふふ、何かサラとは前から知り合いだった、みたいな安心感があるの。運命かもしれないね!」 「...そう、ね。」 この世界の遊園地の外れには、彼岸花の海がある。たくさんの彼岸花が綺麗に咲いていて、それらは綺麗というより少し寂しさを感じられるほどだった。蝶はやはり花が好きなのだろう。ここには10匹以上もの魂が集まっている。それを毎日のように見ているからか、魂が現れても前のように驚くことはなくなった。私達は彼岸花の海の真ん中に座って色々な会話をしたり、蝶の魂と遊んだりして楽しんだ。 「サラ...私達はここから出れないのかな?」 「え、どうしたのハナ?」 突然の事にサラは眉をひそめ、心配そうに こちらを覗き込んだ。 「私がここに来て、約1ヶ月...。毎日、皆で色んな事を話して、脱出できる方法を探しているのに、1つも見つかっていない。それに私自身まだ記憶が戻っていない。...本当にここから出れるの?元の世界に帰れるのかな?」 今にも泣きそうになっている私をサラは抱き寄せる。 「大丈夫...大丈夫よ。私達がついてるじゃない。あなたは1人じゃないの。だから皆で考えましょ?」 サラのひんやりと冷たい手が私の髪をそっと撫でる。まるで硝子物を触るように慎重なその手つきは私の不安を少しずつ少しずつ減らしていった。 「サラ...ありがとう。ごめんね、何か怖くなっちゃって...」 そう言いかけた時、私達の目の前に大きな人魂がやってきた。私は、 「あ、また会ったね大きな蝶々さん。…そうだった。サラ、この魂アゲハ蝶のかな?一回り他より大きくてね、たまにこうやって会いに来てくれるの!」 と笑ってサラの方を見る。サラも私のように笑っているだろうと思って見たサラの顔は微塵も笑う様子はなく、驚いたように目を見開いていた。 「?サラ、どうし...」 「なぜ、あなたが私達の前に現れるの!!」 いきなり叫んだサラは怒りの形相で、でも少し悲しそうに涙目になっていた。人魂は動じることなく、そこに浮かんでいる。 「...サラ?」 「私達がどんな思いでここまで来たと思っているの!あなたのせいでこの子は...。」 そういって私をチラッと見たサラは悔しそうに目をつぶり、そして吐き捨てるように言った。 「消えて...私達の前から。2度と現れないで!!」 そういうと人魂はスッと消えていった。 そのあと、サラは『ごめん、疲れたから帰るね。』と言い部屋へ戻っていった。私も自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。 サラ、どうしたんだろう。サラの取り乱している姿は初めて見た。それにあの人魂は何? 蝶の魂ではなかったの?前に私の部屋の窓から見えたのはあの人魂ではないだろうか。他の人魂よりも大きく、光が強かった。 それと、サラが言ってた『この子』とは私のことなの?でも、それだったらサラの言ってることは理解できないことだらけ...。サラとあの人魂の間には何があったのだろう。考えても謎が深まるばかり。そう考えているうちに私はいつの間にか深い眠りにつき、昔の夢を見た。 『ハナ!この花、なんて名前か知ってる?』 まだ小学生のイツキは私にその花をつきだした。 『ううん、分かんない。何て言うの?』 『これはね、彼岸花って言うんだって! 図鑑でね、花言葉は【想うはあなた1人】って言うんだって!』 『わぁ、ステキ!私、この花好きになっちゃった!』 『僕もこの花好きだよ!おそろいだね!』 『うん、おそろい!』 * * * * * * * * * * * * * * * * ハナが寝た頃。サラはカイトの部屋に訪れていた。 「カイト、今日ハナと彼岸花を見にいったら アレがいたわ。」 「見間違いないのか?」 「間違うわけがないわ。アノ人だもの。」 カイトは、そうかと言い腕を組んだ。それからずっと黙っているカイトに痺れを切らし、サラが口を開く。 「ねぇ、ハナが心配よ。もしまた...」 「大丈夫だ。俺らがいる。なるべくアレに会わせないように、これからはどちらかがハナについていくようにしよう。怪しまれないように、な。」 「そうね...。」
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