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5話 全てのために
あの日からサラの様子がおかしい気がする。何を話しても上の空で、返事をしたかと思えば、
「え、あ、そうね。」
と言う風に相づちを打つだけ。あの人魂が何なのか聞きたいけど私には聞ける勇気がなかった。サラに聞いてしまえば、サラの何かが壊れてしまいそうで...。それからだろうか、いつの間にか私達はこの世界から出る方法について話さなくなっていた。
そんなある日。
「...おい、ハナ。どこいくんだ。」
ちょうどホテルの階段から下りている途中に後ろから声がした。
「カイト...ちょっと花を見にね。」
「俺も行く。」
カイトはいつも部屋にいるか、近くにいても会話することがないからか、あまり話したことはなかった。だから今回もただ行く先を聞いて、自分の部屋に戻ると思っていたので、あまりの意外性に思わず目を見開く。
「え...?」
「だから、俺も行く。」
ぶっきらぼうに私を通りすぎて階段を下りる。まだ固まっている私を見て眉をひそめ
「なんだよ...早く来い。行くんだろ?」
と手をさしのべてきた。カイトが普段こういうことをしないからか、だんだん笑いが込み上げて、つい吹き出してしまった私。
「何か全然似合わないよ、カイト。」
「うっせ。」
そう言い、カイトはさらに眉をひそめるのだった。
「んーーはぁ...やっぱりここは落ち着く。」
彼岸花が咲き誇る真ん中で私は大きく深呼吸をした。
「花なんか見て何が良いのかわかんね。」
「綺麗なものを見ると何かスッキリしない?それに私彼岸花好きなんだ〜。…ていうかそんな言うなら、何でついて来たの?いつもなら部屋にいるのに。」
「別に。気分転換だよ。」
そしてカイトはふいっとどこかを向いてしまった。たまに子供みたいになるんだから…と思いながら私は花を手で覆った。それにしてもサラ...どうしたんだろう。今までこんなことはなかったのに。自分の心に問いながら、その原因は分かっていた。きっと原因はあの人魂だ。
あれはサラにとってどういう事をなしたのだろう。何が彼女をそこまで追い詰めたのだろう。謎は深まるばかりだった。
「あの人魂はいったい...」
「え?」
はっと思い口を抑えたが時すでに遅し。先ほどまでそっぽ向いていたカイトがこちらを凝視している。
「や、えっと、あの...」
どう誤魔化そうか考えたが、頭は真っ白なままで、何も思い浮かばなかった。カイトはそんな私を見て、一瞬考え込んだが諦めたかのようにため息をついた。
「はぁ...サラと2人で見た人魂について知りたいんだろ?」
「え...なんで知ってるの?」
「サラから聞いたからだよ。...知りてぇか?」
そう聞いた彼の目には真剣さとそして心配の色が見えた。だからか、私は何か聞いてはいけなさそうで、でも知っていなければならないようで、すぐに返事が出来なかった。
「...う、うん、知りたい。教えて。」
「分かった。」
そしてカイトは意を決心したように語りだした。
「あれはここに来た人の魂だ。」
「え...ここに来た人?」
「そうだ。ここには最初俺とサラ、そしてあいつがいた。」
初めて目を覚ましたとき、不気味な世界で俺とサラは震えていた。でもあいつは違ったんだ。あいつは冷静に把握し、出口を探し続けた。一時も寝ようとせずに。だからか日に日に弱っていき、俺らが寝るようにを勧めても用心深いあいつは1度も寝ようとはしなかった。だからあいつは...
「あいつは?どうなったの、カイト。」
「...死んだんだ。この世界から出ることなくここで。」
「嘘...。」
「俺とサラはお前にそれが言えなかった。もしかしたら怯えてしまうんじゃないかって。怯えてあいつのように寝ずに、同じようになってしまったらって。だからお前に隠すことにしたんだ。」
「大、丈夫だよ。何となく蝶の魂ではないんじゃないかって思ってたし…。それよりももう秘密事はなしね!」
「…あぁ。」
その日の夜。カイトは私に人魂のことを伝えた後、どうかそうはならないでくれ、と肩を掴んできた。私は大丈夫と笑いかけることしか出来なかったが、本当は怖さで押し潰されそうだった。もしかしたらここを出られずに死ぬかもしれない。今まで考えるのを後回しにしてきた題が、突如として私の前に現れた。私はその恐怖から逃げるために深く深く布団へ潜り込んだ。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「カイト...ハナに人魂のこと話したの?」
「...話せるわけがないだろう。お前だってそれを望んでいるはずだ。」
「そうだけど...。」
「大丈夫だ。造り話を話しただけさ。ハナには知られちゃいけねぇ。ハナのためにも俺らのためにも。そして...この世界のためにもな。」
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