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1話 出会い
『××キ!イ××!×××××てよ!ひ××に××××。』
どこかでそう泣き叫ぶ声が聞こえたような気がした。その必死な声に私まで涙が込み上げてくる。何か大切なものを失ったような...。そこで私は夢の中から現実へと引き戻された。
錆び付いた匂い、ギシギシと鈍い音が響く中、私を呼ぶ声が聞こえる。
「ナ...ハナ...」
ん、瞼が重い。寝ている時は起きているときよりも体温が低くなるせいか少し肌寒い中、私は目をゆっくりと開けた。
そこは私の知らない世界だった。
見回すと、周りはボロボロな観覧車、メリーゴーランド、お化け屋敷、何かの屋台など、まるで廃墟の遊園地のようだった。全ての建物の色が濃い紫色に近い。空は暗く 今が朝なのか夜なのかさえも分からないほどだ。
私の前には、茶色の長髪の若い女の人と耳にピアスをいくつか付けている短髪な男の人がいた。2人は私が目を覚ましたことを確認し、喜びあっている。
「よかった...。ハナ、気分とか悪くない?大丈夫?」
今だこの状況を理解していない私は曖昧な答えを出す。
「え、いや、だ、大丈夫です...。それより、その...ここは...?」
頭痛がひどい。まるで頭のなかにいる何かが中で大暴れしているかのように。それでも必死に今、何が起きているのかを理解しようとする。
「あ、ここは...私達にも分からないの。あなたが来る何週間か前くらいに私達もここに倒れていてね、色々調べ周ったんだけど...。」
そして女の人は気まずそうにチラッと男の人のほうを見て続けた。
「どうせすぐに分かることだろうから、言うけれど…落ち着いて聞いてね。その、2人でこの世界について手当たり次第探したのだけれど、結局出口は見つからなくて、私達もここがどこだか何なのか全く分かっていないの。」
どこか分からない...。出口もない...。その言葉に寝起きで脳に霧がかかっていた状態が、だんだんと鮮明になっていく。それにつれて何一つ状況が理解できていないことに私は焦るばかりだった。
「え、出口がないって...じゃあどうやって私はここに...!」
不安になる私を女の人は、なだめるように私の肩に手を置き、擦ってくれた。
「落ち着いて、大丈夫。入れたんだから出られる方法もきっとあるよ。」
知らない人になだめられ、私は少しホッと安心した。この人には人を包み込む何かがある、と思うほどに安心していた。きっと何も分からない今の状況で、同姓の優しさにほっとしたのかもしれない。
その後私は女の人から、この世界のことについて分かる範囲の話を聞いた。
「私、さっきハナがここに来る何週間前に来たって言ったけど、この世界には日付がないの。ずっとこの薄暗さが続いていて今が朝か夜かなんて全然...。だから私達の体感的に、で決めているだけで本当のところは分からないの。」
それから色々話していたが、私はあることがずっと引っ掛かっていてあまり頭に入ってこなかった。ボーっとする私の顔を女の人が覗き込む。
「どうかした?」
「あの、えっと…さっきから思っていたんですが、なぜあなたは私の名前を...?」
「えっと、それは...」
女の人が口ごもり、私が首を傾げているとあまり話さなかった男の人が口を開いた。
「お前の鞄だよ。そこの中に入ってる名札を見て名前が分かったんだ。」
指を指され、その方向を見ると黒鞄が落ちている。黒鞄...あ。私はそこでようやく自分が16歳であることを思い出した。色々な事が起こりすぎて記憶が混濁しているのだろう。その黒鞄を手繰り寄せていると、女の人が近寄ってきた。
「ごめんなさい。人様の鞄を開けるなんてやってはいけないのに...。」
あぁ、だからさっき口ごもったのか。律儀な人だと思い、
「全然、状況が状況ですし。」
と笑顔で言うと女の人はぱぁっと顔を明るくした。年上のお姉さんという感じにプラス小動物を足したような性格だ。
「それよりも私はお2人の名前を知らないので教えてくれますか?」
「あ、そうよね!私はサラ。大学2年生。こっちはカイト。私と同じ大学2年生よ。出来れば敬語じゃなくて気軽に話してほしいな。そっちのほうがお互い話しやすいでしょ?...それと呼び捨てでお願い。何か''さん''とか付けられると変な感じがしちゃうから。」
「うん、分かった!…思ったんだけど2人は同じ時にここに倒れてたんだよね?それで年齢が同じなんて、何かこの世界に入るには法則がいるのかな…。」
私がそういうとサラはあぁと何でもないように話し出した。
「私達ね、同じ大学で仲が良かったのよ。それでずっと一緒にいたからどっちもここに来ちゃった、って感じだと思う。法則ね…そんなの考えもしなかったわ。」
へぇ。いつも一緒だったから2人ともここに来た。つまりただ偶然的にこの世界に落とされたのか。とそこで、私は何かが引っかかった。この2人に、じゃなくて自分の...。
「...あっ!」
私はそう言って立ち上がり辺りを見回す。いきなりの私の行動に2人は驚いて、目が点のサラにかわってカイトが話しかけた。
「お、おい。どした。」
「私、イツキっていう幼なじみがいるの。私達もずっと一緒だったから、もしかしたらサラとカイトみたいに来てるんじゃって思ったんだけど...いないみたい。」
ホッとしたような少し寂しいような気持ちがする。が、なぜが胸にズキッとくるものがあった。
「...へぇ。」
「そう…残念ね。」
カイトは興味なさげに横を向き、サラはなんとも言えない顔をして、斜め下を見ていた。1人ここに残された私を可哀想と思ったのだろうか。でも私はそう思ってほしくて言ったんじゃないのに…。と考えているとき、視界がグルリと半回転をした。
「…っておい!大丈夫か!」
遠くでカイトの切羽詰まった声が聞こえる。
私は今日全てがいきなりで、色々考えていたためか、その場で気絶するように眠ってしまった。2人が慌てた顔が一瞬だけ閉じようとした瞳に見え、あぁまた心配をかけてしまうなと思いながらも寝てしまった。
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