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白い雪。
空からふわりふわりと綿のような雪が舞い、街の明かりが滲んで見えた。
「毅、どうした?」
「若、」
足を止め宙を見上げた毅の表情が、舞い散る雪でよく見えない。
「……雪ですね」
「ああ、なごり雪だな」
今宵舞う雪が最後になるだろう。
降っては積もり、積もっては溶けてを繰り返し、数日前に静かに消えた。
日増しに暖かくなる。
「なごり雪ですか―――」
毅が呟くのを、
「行くぞ」と声を掛け、待たせている車の中に促し乗り込んだ。
「どうした毅、そんな表情をして」
「いえ、なんでもありません」
運転席に座った仁が、ルームミラーから毅の顔を覗き込んだ。
特に変わったことはなかったが、さすが仁だ。
車に乗り込んだ仕草と表情だけで異変を感じ取った。
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