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飛び付いた瞬間に、被っていたコートのフードが解けて長い髪が流れた。
「……しら、ゆき?」
「会いたかった」
流れた長い髪が毅の胸の中に。
「まさか、……あの時のガキか?……嘘、だろ?」
俺と仁の目の前に、突然現れたのは。
数年前に小便くせえ冴えねえガキだと笑った女。
その時の女はサナギから見事な蝶へと変身していた。
「……しら、ゆき」
ギュッ、僅かに毅の腕に力が入ったのがわかる。
抱き留めたその体は雪が降り積もり冷たくなっていた。
「いつからここに」
「さっき、着いたばかりだよ」
嘘だ。
毅でなくともわかる。
肩になごりの雪が積もる。
どれだけの時間をひとり待っていたのか。
重い門扉の前で。
いつ開くかしれない門の前で。
「わたしね、ちゃんと伝えにきたの」
震える声がして毅が彼女を見た。
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