ケース5 黒い侵略者

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ケース5 黒い侵略者

「犬くん。どうしたの。ペットショップで売れ残って歳を重ねてしまった犬のような顔をしているわよ」と、神楽坂さんは僕を見るなりそのようなことを言う。いや、どんな例えだ。 「聞いて下さいよ。神楽坂さん。今日の通学での話ですが、鳥のフンが肩に直撃してそれに驚いてアタフタしていたら足元の水溜りに気付かず、最近買ったばかりのスニーカーが泥まみれになってしまいました。おまけに白いから汚れが落ちません。電車の中では匂いが充満して避けられるし、まるで歩く汚物で散々でしたよ」 「犬も歩けば棒に当たるってことね。犬くん。今日は私の半径三メートル以内に入らないでくれる?」 「神楽坂さんも僕を汚物扱いするんですか」 「冗談よ。でもせめて着替えてくれるかしら。着替えも洗濯機も生物科棟にあるから」 「分かりました」  僕は綺麗な服に着替えて研究室に戻った。 「さて、犬くん。今日も実験を始めるわよ。その前に事前授業でもしましょうか」 「今日はどのような議題ですか?」 「そうね。今日は犬くんを不幸にさせた元凶の鳥について勉強しましょうか」 「鳥ですか」 「鳥はいつからいるか知っているかしら」 「さぁ、初めから居たんじゃないんですか?」 「そうね。鳥も進化して現在の形になっている。鳥の先祖は恐竜よ」 「きょ、恐竜ですか?」 「巨大なティラノサウルスやメガロサウルスの獣脚類の恐竜から枝分かれして現在に生き残れたものは小型化したものだけだったと言われているわ。柔軟な進化を遂げたことで他の種が巨大な隕石の衝突により絶滅した中で鳥の先祖は生き残れた。と、まぁそんな経緯になるわね。と、言うわけで何故鳥は飛べるのか。犬くんも考えてみようか」  突如始まった議論に僕は考える。鳥。普段何気に見かけて普通に空を飛んでいるが、何故飛べるのかと問われると正確に答えるには難しい。人間が歩くことが当たり前のように鳥は飛ぶことが当たり前なのはどうしてだろうか。 「犬くん。この画像を見て」  見せられたのはツバメの画像だった。 「このツバメは何キロあると思う?」 「キロもないと思います。二十、三十グラムくらいかと」 「正解。二十グラム。イチゴ一個分の重さしかないのです」 「それがどうかしたんですか?」 「その重さが重要なのよ。空を飛ぶ為には身体が軽くないと飛ぶことができない。鳥って見た目はふっくらしていて重そうに見えるけどそれは羽毛が膨らんでいるだけで実際は細い身体をしているのよ。その為、鳥は食べてもすぐにフンとして外に出す。だから鳥は飛ぶ為に徹底的に身体を軽くしているのよ」 「なるほど。じゃ、体の重いダチョウは飛べないわけですね」 「そうね。ダチョウは百五十キロあるから重すぎるのよ。それと鳥には飛ぶ為にある特徴があるの。それは身体の割に大きな翼があること。翼を強く動かす為に大きな筋肉を持っていて空気抵抗の少ない羽毛で覆われた流線型の身体を持っていることなど空を飛ぶ為に必要なことなのです」  神楽坂さんは自信満々に説明する。ちょっと言っていることが難しいようで理解に苦しむ。すると神楽坂さんはホワイトボードを持ってきて翼の絵を描き始めた。 「つまり、翼に生えている風切羽が重要になってくるの。風切羽は外側から初列風切羽、次列風切羽、三列風切羽と分かれます。初列風切羽は鳥が羽ばたいた時に前へ進む力を生みます。ようは飛行機のプロペラのような役割ね。次列風切羽は鳥が空に浮かぶ力を生み、三列風切羽は空気抵抗を少なくして浮く為の力を増やします。とまぁ、ここまでが鳥が空を飛べる為の条件ね。分かったかしら」 「はい。なんとなく」 「そう、じゃ実験を始めましょうか」  と、神楽坂さんは指を使って口笛を吹いた。甲高い音と共に部屋の隅でずっと身を潜めていたのか一匹の鳩が神楽坂さんの肩に乗った。 「なんですか。その鳩」 「この子は伝書鳩のポーくん。成田教授の知り合いから預かった子よ。今日はこの子を使って鳩レースをやろうと思います」  伝書鳩は鳩を飼いならし鳩の帰巣本能を利用して遠隔地から鳩にメッセージを持たせて届けさせる通信手段の一種である。一種によれば千キロ以上離れた地点から巣に戻ることができると言われている。使い方は遠隔地へ伝書鳩を輸送し脚に通信文を入れた小さな筒をつけて放鳩する。 「ポーくんはここから千キロ地点にある鳩舎からお借りした鳩です。よってポーくんは無事に鳩舎に戻ることができるかという実験よ」 「鳩ってそんな遠くまで飛べるんですね」 「動物の本能っていうのは不思議なものよ。現在ではネットで通信手段は盛んだけど、一昔前は伝書鳩を使って連絡を取り合っていたと聞くわ。さて、どんなメッセージを送ろうかしら」 「僕も書きたいです」 「ダメよ。これは私が借りたの。それに筒に入りきる紙しか入れられないからそんな多く書けないわ」  神楽坂さんは楽しそうに紙に何かを書き、それを筒に入れた。 「なんて書いたんですか?」 「内緒。無事着いたら連絡が来るからその時に見せてあげるわよ」  神楽坂さんは意地悪そうに言う。僕を差し置いて一人で楽しそうだった。 「これでよしと。さて後は放鳩するだけ」 「それも神楽坂さんがするんですか?」 「勿論」  実験とはなんだろうか。 「さぁ、ポーくん。無事に鳩舎に帰るのよ。行ってらっしゃい!」  ポーくんは窓から勢いよく空に向かって飛んでいった。みるみると小さくなりその姿は見えなくなった。 「行っちゃったわね」 「大体どれくらいで着くものなのですか?」 「さぁ、千キロもあるからね。三日、いや一週間くらい見た方がいいかもね」 「そうですか。無事に帰れるといいですね」 「そうね。まぁ、そこは信じて祈りましょう」  その時だった。神楽坂さんのスマホに一本の着信が入る。  悪い予感がした。神楽坂さんは普段、電話をするような人ではない。何と言っても人間と会話を楽しんだりしないからだ。掛かってくるとしたら依頼か何かだろう。 「犬くん。出動よ」  僕の予想は見事に的中した。果たして今回はどのような依頼なのだろうか。 「初めまして。神楽坂動物相談所の神楽坂鈴蘭と言います。本日はご依頼ありがとうございました」  僕たちが今回訪れたのは街中にあるカフェのお店だ。  依頼を受けたのはこのカフェを経営している白川瑞穂さん(三十三歳)からである。この店自慢のコーヒーを飲みながら話を進める。 「このコーヒー美味しいですね」と神楽坂さんはブラックのまま飲んでいた。それに対して僕はミルクと砂糖を多めに入れて飲んでいる。それを見た神楽坂さんはそんなに入れたらコーヒー本来の味が分からないじゃないと注意を受けた。僕は苦いのが苦手なので勘弁してほしい。 「あら、嬉しい。どんどん飲んで。おかわりも用意するからね」  依頼者の白川さんはおしとやかで品のある女性だった。その若さで店を経営しているので豊かな暮らしをしているように見える。 「それで今回の依頼内容というのは?」と神楽坂さんは切り出した。 「実はここ最近、店の売り上げが落ちているの。見ての通り、お客さんいないでしょ」  営業中にも関わらず、店内には僕たち以外いなかった。  ん? 客がいないのが依頼にどのように繋がるのだろうか。僕たちはあくまで動物に関する相談や悩みの解決が仕事であって客を増やすことは仕事にしていない。 「実はうちだけじゃなくてこの周辺にある店はどこも客が減っているそうなのよ。不景気で頭が抱えるばかりよ」 「何か原因があるんですか?」 「原因はあれよ」と白川さんは店の外に視線を送った。その先には電線にカラスが数匹止まってこちらを睨んでいた。 「ここ最近、カラスが増え始めて被害が増えているの。ゴミ袋をひっくり返したり店の前で大量のフンを撒き散らされたり毎日片付けてもすぐに同じ状態に戻る。おかげで店の周辺には人も寄り付かなくなって客足も減ったって訳。このままじゃ店が回らずに閉店することになる」 「それで今回の依頼はカラスの撃退ってことですね」 「えぇ。どうか頼めないかしら。店の為にもこの街の為にも」 「承知致しました。この依頼を引き受けましょう」  とは言ったものの、カラスというのは一羽や二羽を追い払った程度で被害は無くならない。何十、何百羽単位でこの街を飛び回っている。それに相手は空を飛べるので僕たち人間が手出しすることは出来ない。 「神楽坂さん。一体どうやってカラスを撃退するつもりですか?」 「さて、さっきは依頼者の前で言えなかったけど、カラスの撃退というのは簡単なものではないのよ。カラスって動物の中でも頭が良いって知っているかしら」 「はい。硬い木の実をわざと車道に置いて、車に轢かせて割って食べる動画を以前見たことがあります」 「そう。賢いのよ。それに覚えた知識を仲間に伝達することも出来るから知識があるカラスも増える。それにカラスの寿命も長くて三十年はあるからなかなか死なない」 「え? カラスってそんな長生きするんですか?」 「えぇ、犬が十五年くらいと言われているからその倍は長生きしているわね。犬くんは寿命よりも長く生きているからかなりの老犬ね」  いや、僕は人間であってまだピチピチの十九歳ですけど!   犬なら老犬の年齢だけど、僕は人間であるということをご理解願いたい。 「とは言えカラスは集団で生活をする動物だから駆除も大変でしょうね」 「何か方法はないですかね」 「そもそもどうしてカラスが集まってきたのか。そこに原因があると思うわ」 「そうですね。でも、その原因はどうやって探せばいいんでしょうか」 「カラスが集まってきた要因は人間かもしれないわね」 「人間ですか?」 「カラスというのは雑食でね、人間の食べ物は何でも食べちゃうのよ。だから人間の出すゴミは恰好の餌場となるの。しかも、この付近は飲食店が盛んで捨てられるゴミも多くカラスにとってはご馳走パラダイスって訳」 「確かにこの辺は店が多い繁華街ですよね」 「それにその餌を求めてきたネズミや雀もカラスにとっては最高のご馳走になるからより住み着く要因になるかもしれないわね」 「それじゃどうしたらいいんですか。そうなると対策のやりようがないじゃないですか」 「そこでカラスの頭が良いのを逆手にとるのよ」 「頭の良さを逆手に?」 「例えばカラスにこの場所は危険だと認識させてそれを仲間に伝達させれば自然とカラスを撃退することが出来るわ」 「なるほど。良いアイデアですね。でも危険と認識させるにはどうしましょう」 「さて、色々試してみましょうか」  カラスは法律で守られている為、殺傷したり、捕獲することは出来ない。その為、カラスは強引な駆除が出来ない為、追い払うしかない。  カラスは光や音が苦手なようだ。レイザーポインターのような強い光は特に苦手とする。CDのような反射する光でも効果的だ。しかし、全ての箇所に設置するとなれば費用も時間も掛かるのであまり得策とは言えなかった。  その他に爆音でカラスを追い払う手もあったが人間にも有効だったので騒音トラブルに成りかねず断念せざるを得なかった。  荒らされにくいゴミの出し方というものもあるようで実行すればカラスが減っていく確率は上がるが人間にこのようなことを実行させるには時間と手間が掛かるのでこれも断念せざるを得なかった。  防鳥ネットの使用も試みたが、電線に止まるのでこれも断念。  カラスは唐辛子のような辛い食べ物が苦手という情報があり、唐辛子を煮出した水を霧吹きなどのスプレー状のボトルに入れて吹きかける撃退法があったので早速試すも雨の日には効果が薄まり意味がなかったので断念。  あの手、この手でカラスの撃退を試みたがどれもうまくいかず作戦は全て失敗した。 「神楽坂さん。ダメです。これではカラスの撃退なんて無理ですよ。そもそも僕たち二人でどうにかなる問題ではなかったんですよ」 「…………」  さすがの神楽坂さんも作戦がうまくいかず凹んでいるのかと思った。諦めて空を見上げてしまっている。 「あ」 「どうしましたか。神楽坂さん」 「あれよ」 「あれ?」  空にはカラスが雀を追いかけている光景が繰り広げられていた。それを見て何か思いついたようだ。  数日後、僕はカラスがよく出没するという朝六時に現場近くにある公園に来ていた。こんな朝早くに呼び出されて機嫌が悪かった。神楽坂さんは何を考えているのだろうか。 「おはよう。犬くん。ちゃんと来たようね」 「おはようございます」  神楽坂さんはいつものラフな恰好で元気に現れた。全く眠そうな様子はない。むしろ元気に手を挙げながら近付いてくる。 「神楽坂さん。こんな朝早くに呼び出してどうしたんですか」 「同然、カラス駆除に決まっているじゃない」  何か秘策があるのか、やけに神楽坂さんは自信に満ち溢れていた。一体どんな方法でカラスを追い払うというのだろうか。 「犬くんは遠吠えを上げながら応援しているだけでいいわ」  ワォーン! と遠吠えを上げそうになるが人間である僕がそんな真似するはずもない。 「さて、準備を始めましょうか」  神楽坂さんは肘まで長さがある革製のグローブを右手に装着した。同時に左指を使って口笛を吹いた。公園全体に響き渡る口笛はあるものを引き寄せた。 「な、何かこちらに向かって飛んでくる」  その何かが神楽坂さんの右腕に着地した。 「神楽坂さん。それは何ですか」 「鷹のカイくんよ」 「ど、どうしたんですか、それ」 「借りたのよ」 「借りたってそんな簡単に借りられるものなんですか?」 「私の人脈を侮ってもらっては困るわね。でも苦労したのは事実だけど、これはここだけの話よ」  一体どんな方法で借りたのか恐ろしくて聞き出せなかった。 「それはいいとしてその鷹をどうするつもりですか」 「勿論カラスの撃退よ。カラスの天敵は鷹って知っている? ネズミや雀の天敵がカラスと同じようにカラスにも天敵がいるのよ。この街ではカラスの天敵はいなかったから頂点に立って好きなようにされたけど、もし天敵が現れたらさすがのカラスも街から避難すること間違いなし」 「な、なるほど。今回の作戦は成功する気配しかしませんね」 「特訓した私の実力を見なさい。そーれ!」  神楽坂さんは右手を大きく振りかぶり鷹を投げ飛ばした。すると鷹は弾丸のように一直線に木に向かって飛んで行った。 「凄い」 「犬くんも試しにやってみる?」 「いいんですか?」 「えぇ、グローブ貸してあげる」  早速、鷹飛ばしにチャレンジすることになった。  鷹が僕の腕に乗っている。意外と軽かった。鳥は軽量化でなくてはならない。必然的に鷹も軽い。だが、爪がしっかりとしていて腕が食い込んでいるので締め付け感が圧迫していた。こんなもので掴まれたら一溜まりもない。グローブがなければ怪我をするだろう。 「そーれ!」  神楽坂さんがして見せたように僕も鷹に助走をつけさせるように振りかぶった。  が、鷹は紙飛行機が墜落するように地面に着地し羽をばたつかせた。 鷹のカイくんは「え? 何?」と言った感じで僕を睨む。神楽坂さんのように格好良く羽ばたかせることはできなかった。 「ふふふ。意外と難しいでしょ」と、神楽坂さんは僕の失敗を見て満足げである。 「鷹と人間の息が合っていないと出来ないのよ。私は元々体質的にうまくいったけど、普通の人だとまずそうなる」 「まさかこの数日で鷹との息を合わせたんですか?」 「勿論。まぁ、鷹匠っていう人を呼んでくれば早い話だけど、自分の力で依頼を解決したかったから時間も手間もお金も掛けてしまったわ」 「僕の知らないところで苦労しているんですね」 「そういうこと。さぁ、早速カラス駆除を始めるわよ」  公園から移動してマンションや歩道橋など高い場所に移動した。  高いところから鷹を放つことでカラスに衝撃を与えることができるそうだ。 「さて。狙うポイントはこの辺ね」  神楽坂さんはマンションの屋上に場所を絞る。付近には電線や木に無数のカラスたちがいる。この数を相手に一羽の鷹で撃退出来るのだろうか。 「さて、準備万端。カイくん! お願い!」  神楽坂さんは鷹を放った。すると鷹はカラスに目掛けて一直線に向かう。突如現れた、思わぬ天敵にカラスたちは驚いて逃げていく。 「神楽坂さん。カラスって集団で行動する生き物ですよね」 「うん。そうだけど」 「もし、集団で鷹が襲われたら勝てるんですか?」 「鷹だけじゃないわ」 「え?」  するとカラスに威嚇をした鷹は神楽坂さんの元に戻ってくる。カラスたちは混乱して空を無造作に飛び回る。 「鷹の後ろには私がいる。カラスにとって人間もある意味天敵よ。もし、鷹と人間がタッグを組んだと知ったらカラスはどうなるか。そーれ! カイくん。トドメよ」  鷹は再びカラスを追いかける。すると付近のカラスは一斉に山の方へ飛び立っていった。 「カラスは集団だと強いけど、私たち人間と鷹が組んだと知ったら太刀打ちできないわよ」  その後も神楽坂さんと鷹の見事なコンビネーションで街のカラスを追い払うことが出来た。街から黒い影は綺麗さっぱり無くなったのだ。 「やりましたね。神楽坂さん。これでもう平穏な日常を送れますね」 「えぇ、でももしかしたらまた現れるかもしれないわね」 「え?」 「しばらくは天敵がいるから近づいてこないと思うけど、半年もすればまた餌を求めてやってくるかもしれない。動物は話し合いで解決できるようにはなっていないから」 「そうですか」  カラス被害はこれにて無事解決した。しかし、その後どうなるのか今の段階では分からない。そうなればまだ神楽坂さんがなんとかしてくれる。そう、人が人である以上、動物と共存は出来ないのだから。  カラス被害の依頼を解決して数日後のことだった。 「犬くん、ついに辿り着いたわよ!」  神楽坂さんは慌てたように僕に迫ってきた。 「どうしたんですか」 「ポーくんが鳩舎に辿り着いたのよ」 「ポーくん? あ、もしかして伝書鳩の?」 「そうよ。さっき飼い主さんから連絡が来たのよ」 「でも本当に千キロ離れた距離に戻ってくるなんて信じられないですよ」 「鳩の本能よ。動物って凄いわね。犬くんも優れた嗅覚があれば話は変わってくるのに」 「僕は犬じゃないので並の嗅覚しか持ち合わせていません。あ、それよりメッセージはどうなったんですか。無事に着いたら見せてくれるって約束しましたよね」 「勿論、分かっているわよ。画像付きでおくられてきたから一緒に見ましょうか」  送られてきた画像は二件あり、伝書鳩のポーくんとメッセージである。そもそも鳩なんて似たような顔をしているからポーくんと言われても本人……本鳩か分からない。そして問題のメッセージの紙にはこう書かれている。 【神楽坂鈴蘭は虫が大の苦手である。犬くんは犬なのに体毛を剃っている】  と、公表されたくない秘密が書かれたものである。 「てか、何で僕の秘密を知っているんですか。それより神楽坂さん、動物は好きでも虫は苦手なんですか?」 「もし、辿り着かなければ秘密は守られたんだけど、着いてしまえば秘密を晒される緊張感ある駆け引きをしたかったけど、見事秘密を届けられてしまいましたか」と神楽坂さんは棒読みである。その前にどうして僕の秘密を神楽坂さんが知っているのかということである。 「さぁて、どうしてでしょう」と神楽坂さんは教えてくれなかった。だが、また一つ神楽坂さんの秘密を知ることが出来て良かったのか悪かったのか悩みどころである。  それにしても伝書鳩って凄い。
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