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白鷺川を渡りきる直前、片山の視線に入ったのは、線路に進入する一台の自転車だった。
農作業で往来する地元住民の強い要望で、五高線に残る遮断機の無い元踏切。
距離は百メートルも無かった。
心臓が喉元まで、一気にせり上がる。
キャップを被った子供は列車に気づき、凍り付いていた。距離は百メートルも無い。
片山は躊躇わずに緊急ブレーキを作動させ、警笛を鳴らした。
(止まるな、そのまま抜けてくれ!)
片山の祈りが通じたか、呪縛の解けた自転車が線路を越えた直後、掠めるように通過した。
「何があった!?」
客室の御木。こんな状況でも、パニックになっていないのは職業柄か。
「子供が線路に……」
片山の心臓は、まだバクバクと暴れている。
(貸せっ)無線をひったくったのだろう、逆月が割り込んできた。
「子供は無事か?」
自分の任務では無く、先に子供の心配をしたことが意外だった。
「大丈夫だ。ぎりぎりで通過したよ」
「それじゃあ、とりあえず飛ばしてくれ。次の手を考える間、時間を無駄にしたくない」
「分かった」
通話を終えようとした片山に、逆月がぼそっと言った。
「子供のこと、ありがとう」
えっ?と思った時には、無線が切れていた。
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