terrorist

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 ようやく発車のベルが鳴った。 絵本に飽きた里沙が、窓に手をかけて物珍しそうに外を見ている。ホームの駅員が、里沙に気付いて手を振ってくれた。満足そうに手を振り返した里沙が、シートに座り直す。 「トイレは大丈夫?」  乗り込む前に済ませていたが、念のため聞いた。幼い子供連れだと、ぐずる声とトイレには気をつかう。 「へいき」 「行きたくなったら、我慢しないですぐに教えてね」 「うん!」  ほっとした裕子の横で、里沙がポーチをあさり始めた。キラキラしたビー玉、猫のノート、シール…。里沙のポーチには、可愛らしい夢が無限に詰まっている。  取り出した折り紙の中から、黒、茶色、灰色の三枚を選ぶと、何やら折り始めた。 「何ができるのかな?」 「ネコさん。ママは、なにいろのネコさんがすき?」 「茶色のネコさんかな」 「わかった」 里沙は、にこっと笑ってうなずいた。  夢中で折り紙を折る里沙を見ていた裕子は、ふと視線を感じて目を上げた。  通路を挟んで反対側、四人掛けのボックスシートに一人で座る、愛嬌のある笑顔を浮かべた黒人男性と目が合った。夫と同じくらいの年齢か。 「おはようございます」 流暢な日本語で挨拶される。 「おはようございます。お一人ですか?」 「いいえ、妹と姪っ子が一緒です」 膝に置いた鞄から、小さな額に入れた写真を取り出した。 はっとする裕子を気にする様子も無く続ける。 「二人とも、日本に行ってみたいとずっと言っていたからね。連れてきました」 寂しそうに笑う。 「ごめんなさい、私ったら……」 「気にしないで下さい。お嬢さんですか?」 穏やかな瞳は、里沙を見守っているようだ。 「はい、来月六歳になります」 「一番可愛らしい時ですね」 「ええ、最近少し生意気になりましたが」 笑いながら里沙を見ると、三匹目の猫を完成させていた。 「どっちのネコさんがいいですか?」 里沙が黒人男性に、黒と灰色の猫を見せて言った。 「おじさんにくれるのかい?」 「うん」 「すみません、ご迷惑を……」 言いかけた裕子を笑顔で制すると、迷わず黒猫を選んだ。 「幸運の使いだからね。黒いネコさんをもらえるかな」 「はい!」 里沙が差し出した折り紙の黒猫を嬉しそうに受け取ると、丁寧に上着のポケットにしまった。 「ありがとう、お嬢さん。おっと、電話の時間だ。ちょっと失礼しますね」 裕子と里沙に断ってから、男性はスマートフォンを持ってデッキに向かった。
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