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月明かりを浴びて、綺麗に笑う圭一郎は闇の中に浮かぶ仄暗い世界の王子のようだ。
春岡はその王子が、鳥籠の中の鳥を微笑んで見つめている様が目に浮かんだような気がした。
「春岡室長?」
春岡はハッとする。
圭一郎は急に仕事をしている時のような厳しい表情になった。
「珠月のことはもう放っておけ。俺がついている。余計なお世話はやめておくんだ。いいか、珠月は俺に君をクビにはするな、と言ったんだ。辞めさせるな、とね。彼女の気持ちを無にするなよ。」
逆鱗だ……、と春岡は思った。
触れてはならないもの。
北高会病院の逆鱗、が桜井珠月なのだ。
本当に圭一郎が怒ったら、この世界では仕事を続けていけない。
それは間違いがないことだ。
「彼女の意に添うなら、今まで通り、余計なことはせずに、優しい室長でいておけ。それが一番問題がない。」
どれだけ言っても、何を言っても、おそらく圭一郎には逆らえないのだし、珠月にも届かない。
本当に余計なお世話なのだ。
「彼女を……幸せにしてあげてください。」
「言われなくともな。」
「本当に、とても苦労をしているんです。」
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