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無くした記憶
薄らと意識が戻る気配がして、最初はその頭の痛みに気づく。
すごく、痛い…、痛くて、痛くて…
「…つき…」
つき?
「…つき…」
何度も何度も呼ぶその声は、必死さを含んでいる。
最初は頭が痛くて、その声に答えることも、その声もよく聞こえなかったのだけれど、意識がハッキリとしてくるにつれて、声がハッキリと聞こえてきて…
「みつき…みつき…」
「…っ…」
薄らと目を開けると、目の前には、ひどく整った顔立ちの男性が、焦ったように自分を見つめていた。
「大丈夫?!」
ズキン、と頭が痛む。
「…、たま…、いた…」
声も、うまく出せない。
「みつき、無理しないで。」
意識がハッキリすると、頭以外にもいろんなところが痛んだ。
「…っ…た…」
「みつき、本当に心配した。良かった…。」
みつき…?
「え…と、あなた…、誰…?」
目の前の男性は、一瞬、呆然とする。
「な…に言ってるんだよ、俺、だよ?もしかして、見えてない?」
「見えて…いる…けど。」
お…れ?
「俺だよ、みつき、どうしたの?!」
彼は自分をぎゅぅっと抱きしめてくる。
「…っん、いた…い…」
慌てて、弾かれたように彼は離れた。
「ごめん、みつきはケガしているんだな。誰、とか言うから、俺…思わず…。」
「みつ…き?」
緩く、首を傾げる。
「え?自分の名前だよ?」
彼は、ベッドの横に座って、そっと、彼女の手を取った。
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