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「こんばんは。
ようこそメーヌリスへ。
僕が今宵、ブルーノさまのお相手を勤めさせていただきます。
静夜・クレセントです」
白大理石で作られた豪奢な浴槽と、貴重な合成植物繊維で織られた布をふんだんに使ったベッドのある、最高級の部屋。
ここで金と地位のある裕福な客を、カラダを使ってもてなすのが、男娼である僕の仕事だ。
高級娼館メーヌリスの名前を汚さぬよう、品位を持って。
でも、あまり堅苦しくならないように『可愛く』。
豪華な部屋の片隅に跪いて、完璧なご挨拶をしてみせたのに!
今夜の客は人の話を聞いちゃいなかった。
客の名は、ブルーノ・コスタ。
熊みたいに大きいカラダを高級ブランド服で包み、顔もそこそこ整っている。
左腕を機械化している他は普通の人間で、今夜も僕を指名して来た馴染みの客だ。
まだ三十代前半で、頭が良く、仕事も出来る。
平民出なのに、他国との貿易で成り上がり、冨民の地位を金で買ったらしい。
色々噂のある男だ。
生まれた血筋で決まる最高の身分にふんぞり返り、ただの、のほほーんとしている冨民とは、目つきからして違うはずなのに。
僕の担当する個室の扉が閉まった途端、自分の雰囲気と態度を一変させた。
ブルーノは、鋭かった目じりをでれーんと垂れ下げ、ついでに、鼻の下もびろーんと長く伸ばし。
荒く息を吐いたかと思うと、床に跪いていた僕をあっという間にベッドに攫って押し倒して来たんだ。
つい一瞬前は、映像記録に残っていた野生の猛獣のような雰囲気だったのに、今や、別のケダモノになり下がる。
そこそこ良い顔、イケメンが台無しだ。
「静夜、静夜、会いたかった……!」
ブルーノは絶対僕から離れるもんか、とでも言うように、力任せにぎゅう、と抱きしめて来やがった。
会いたかった~~って!
先週も僕とヤったじゃないか、こんの莫迦力!
こっちは、お前とは違って繊細なんだぞ!
もうちっとは気を使え!
……とは、客に向かって、死んでも言えず。
僕はあいまいに笑ってみせる。
「ブルーノさま、痛いです」
僕の抗議に、ブルーノはようやく少し腕の力を緩めて、ささやいた。
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