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僕のお願いに、アルは目を細めた。
「……なんで、俺にそんな義理が……」
「……確かに、僕について行かなくちゃならない義理なんて、一つも無いんだけどもさ」
夜も遅いし、面倒なことも判るけど、造花はキレイだし、お菓子は僕の好みばかりをみつくろっているんだもん!
食べれば美味いに決まってる。
僕が、次にメーヌリスに来るのは五日後だし、捨てて行くには、ちょっと惜しい。
ふ……ふん。
ブルーノなんてキライだけど、お菓子に罪は無いもんね!
だから。
必殺。
「お願い。家まで連れて行って?」……って。
どんなに精神力が高くても、大抵、転ぶ。
僕の美貌を最大限に生かした、営業スマイル全開の『うるうる瞳すまーいる』を受けてみろ~~と、やろうとしたら、聞いていたマダムが口添えしてくれた。
「ごめんねぇ、アル。
悪いけどメーヌリスからもお願いするわ。
割増料金を支払うし、車も出すわ。
静夜君を送った後、好きな場所に降ろして上げるから、ちょっと付き添ってくれないかしら?」
「……『仕事』だったら、つきあってもいいが……」
……出来れば、こんな。すぐ尻尾を引っ張るヤツとは一緒に居たくない、とでも続きそうな言葉をわざと無視して、マダムは言った。
「そう! ありがとう、助かるわ、アル~~
ほら、最近、特に物騒じゃない?
殺人事件が、急に増えた上『死神の歌を聞いたヒトは死ぬ』って言う噂も流行っているみたいだし……」
なんて、マダムが言えば、アルも黙ってうなづいた。
「ああ……俺も最近、一人暮らしを始めたばかりで、街の情報には、疎い方なんだが……聞いた事は、ある」
最初にコトを始める前に、ブルーノも言っていた噂話を、マダムも、アルも知っているようだった。
最近、冨民墓地や、死んだ平民以下の人間が集められる死体置き場に、歌う死神が出るらしいって話だ。
「一度聞いたら、絶対忘れられないほど良い声で歌い、生きている人間を惑わす、とか。
『死神』が殺人鬼本人かは知らないが、最近、特に死人が多くなったのも、死神が歌を歌うせいだと噂がある」
……なんだ、静夜は、そんな奴が怖いのか? なんて。
今まで、僕に振り回されっぱなしだったアルが、少しは反撃する気になったみたいだ。
突ついて来るアルに、僕は鼻息荒く言った。
「ふ……ふん! べっっつに、そんなの怖くないもんね!」
「ほーー」
何だよ、その、表情無いくせに、なんだか楽しそうな言い方は!
ぷぅ、と最大に膨らむ僕のほっぺを見て、マダムは『まあまあ』と、とりなしてくれた。
「死神が、本当にいるかは、さておいて。
治安が悪い夜の街に、こんなキレイな子をほっといたら危ないでしょう?
今日は、いつも静夜に付き添ってる奴隷も帰っちゃったし、一人なのよ~~」
なんてマダムの言葉に、アルも少しは話を聞く気になったみたいだった。
………
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