469人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ああ、すまん。
でも、静夜をこの手に抱くと、ほっとするんだ。
今週も私の会社を去ってゆくヤツもいたし、部下が一人、死んだしな」
そう言って、ブルーノは深々とため息をつく。
「最近、冨民墓地や、死んだ平民以下の人間が集められる死体置き場に、死神が出るらしい。
一度聞いたら、絶対忘れられないほど良い声で歌い、生きている人間を惑わして死の国へ誘うんだと。
もともとこの世界で死ぬヤツは少なくないが、なぁ。
最近、特に死人が多くなったのも、死神が歌を歌うせいだと噂がある」
「……ブルーノさまでも、そんな話、信じるんですか?」
ブルーノ・コスタは、強い。
ライバルを全て蹴り倒して、財産と地位を築きあげ、人の恨みを買ってなお、豪快に笑う奴だと思っていたのに。
部下を亡くしたせいかな?
今日は珍しく、気弱になっているらしかった。
「いつ、自分も死神の歌を聞くのだろうと思うと、すごく怖い」
そう訴えるブルーノの背中を、僕は抱きしめるようにして、ぽふぽふと叩く。
「心の癒しをお求めでしたら、僕みたいに15才を越えた『男』を抱くのでなく。
もっと幼い子か、女の子を相手になさればよろしいのに」
僕の提案に、ブルーノは軽く睨んだ。
「また、そんなつれないことを言う!
私は、静夜がいいんだ。
お前は……お前だけは、どこにも行かないでくれ……!」
ブルーノは、一度緩めたはずの腕をまた強く抱きしめて来る。
……だから、痛いんだってばさ。
僕は、そっとブルーノの耳に息を吹きかけ、耳たぶを甘く噛んでささやいた。
「僕は、ブルーノさまのモノです。
そんなに強く抱きしめなくても、どこにも行きませんから」
……そう。
お前は、僕を好きにしていいし。
僕も出来うる限り、従うよ。
それが、この店でのルールだ。
お前が金を支払った分。120分間だけだけどね。
そう、こっそり吐いた、ため息に気付かなかったらしい。
ブルーノの目つきが更に、やに下がる。
そして彼は、わざとらしく咳払いをして言った。
「あーこほん。
二人きりの時に、敬語は無しだ。
私のこと……いや、オレのことは、ブルーノと呼び捨てろ、っていつも言ってるだろう?」
……心の中では、とっくに呼び捨てたけどね。
なんてことは、おくびにも出さず、僕は、そっとつぶやいた。
「では……ブルーノ」
僕が、そう名前を呼び捨てれば、ブルーノの『エロモード切り替えスイッチ』が今夜も入る。
最初のコメントを投稿しよう!