プロローグ~恋より刹那の快楽を~

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「……ああ、すまん。  でも、静夜をこの手に抱くと、ほっとするんだ。  今週も私の会社を去ってゆくヤツもいたし、部下が一人、死んだしな」  そう言って、ブルーノは深々とため息をつく。 「最近、冨民墓地や、死んだ平民以下の人間が集められる死体置き場に、死神が出るらしい。  一度聞いたら、絶対忘れられないほど良い声で歌い、生きている人間を惑わして死の国へ誘うんだと。  もともとこの世界で死ぬヤツは少なくないが、なぁ。  最近、特に死人が多くなったのも、死神が歌を歌うせいだと噂がある」 「……ブルーノさまでも、そんな話、信じるんですか?」  ブルーノ・コスタは、強い。  ライバルを全て蹴り倒して、財産と地位を築きあげ、人の恨みを買ってなお、豪快に笑う奴だと思っていたのに。  部下を亡くしたせいかな?  今日は珍しく、気弱になっているらしかった。 「いつ、自分も死神の歌を聞くのだろうと思うと、すごく怖い」  そう訴えるブルーノの背中を、僕は抱きしめるようにして、ぽふぽふと叩く。 「心の癒しをお求めでしたら、僕みたいに15才を越えた『男』を抱くのでなく。  もっと幼い子か、女の子を相手になさればよろしいのに」  僕の提案に、ブルーノは軽く睨んだ。 「また、そんなつれないことを言う!  私は、静夜がいいんだ。  お前は……お前だけは、どこにも行かないでくれ……!」  ブルーノは、一度緩めたはずの腕をまた強く抱きしめて来る。  ……だから、痛いんだってばさ。  僕は、そっとブルーノの耳に息を吹きかけ、耳たぶを甘く噛んでささやいた。 「僕は、ブルーノさまのモノです。  そんなに強く抱きしめなくても、どこにも行きませんから」  ……そう。  お前は、僕を好きにしていいし。  僕も出来うる限り、従うよ。  それが、この店でのルールだ。  お前が金を支払った分。120分間だけだけどね。  そう、こっそり吐いた、ため息に気付かなかったらしい。  ブルーノの目つきが更に、やに下がる。  そして彼は、わざとらしく咳払いをして言った。 「あーこほん。  二人きりの時に、敬語は無しだ。  私のこと……いや、オレのことは、ブルーノと呼び捨てろ、っていつも言ってるだろう?」  ……心の中では、とっくに呼び捨てたけどね。  なんてことは、おくびにも出さず、僕は、そっとつぶやいた。  「では……ブルーノ」  僕が、そう名前を呼び捨てれば、ブルーノの『エロモード切り替えスイッチ』が今夜も入る。
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