プロローグ~恋より刹那の快楽を~

30/41
前へ
/90ページ
次へ
「痛っててて~~っ~~  ごめんよ~~ アル君。  もうちょっと、丁寧に僕を扱ってくれるかな?」  メーヌリスのマダム専用の車が置いてある車庫でのことだった。  僕はアルに、車の後部座席に放り込まれ、悲鳴を上げていた。  このセカイの車が完全に機械化されたオートドライビングカーで良かった。  大昔のタクシーのように運転手がいたら、きっと、あまりの騒がしさに乗車拒否をされたかもしれない。  だが、しかし。  アルの名誉のために語れば、別に、彼は僕を虐待しているわけじゃなかった。  最初は、アルに横抱き……お姫様だっこなんてされたくなかったんだけど、僕とアルでは身長差があり過ぎて、上手く肩を借りれなかったんだ。  大量の紙の花束と、お菓子の包みを抱えたまま更に、片手で僕を支えるのは無理だったので、結局。  僕が花とお菓子を持ち、アルが僕ごと、それを横抱きで運ぶことになった。  獣人らしく、一般の男よりも腕力がある。  僕と荷物を、こともなげにひょい、と持ち上げるのが、あまりに頼もしかったから。 「ねぇ、コート脱いで腕の筋肉見せて?」ってお願いしただけなのに~~  タクシーの後部座席に、無言で荷物ごとポイッと放り込まれちゃったんだ。  ん、で。  僕の使いこまれたお尻が、タクシーのクッションで、体重の他に荷物の重さを支えることになり……僕は悲鳴をあげたってわけ、なんだけど。 「えええ~~っ?  なんで、アルは不機嫌なの?  リアクションが、女の子に『おっぱい見せて』って言ってみた時と同じなんだけど……?」  アルは、自分の腕がそんなに恥ずかしいのかな?  って首を傾げたら、アルはギロッと僕を見た気がした。 「きゃ~~ 無表情で僕を睨むのやめて~~ 怖いじゃないか」 「俺は不機嫌になった覚えはないし、静夜を乱暴に取り扱った覚えもない。  腕は、見せてやっても良いが、肘より後ろに醜い鱗があるくらいでつまらんぞ。  それより……お前は、女性に、向かって、胸を見せろ、などと、平気で、言うのか?」  相変わらず無表情だけど、女性の胸の件辺り、一言ずつ区切ってる言葉が不機嫌具合を示しているようで、ちょっと怖い。  けど、気にしないもんね。 「だって~~ たまには、さ。  僕のこの『美貌』に騙されて『ええ~~恥ずかしいわ。でも静夜君にだったらみせちゃお。えい』って子もいるんだもん。  おっぱいって、イイよね。  ふわふわで、たぷたぷでさ。触っているとなんか、癒されるんだよね~~  ま、ペニスも好きだけど。  柔らかいのを撫でたり舐めたりしてるとさ。  最初は男に触られて気持ち悪りぃ~~なんて嫌がってても、結局。  本人の意志とは関係なく、だんだん元気になってゆくんだよね。可愛い」 「……静夜」  どうやら、僕の話が聞くに堪えないらしい。  静かすぎる低い声に、僕は可愛く首を傾げてみせた。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

472人が本棚に入れています
本棚に追加