472人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ? アルはこんな話キライ?
……もしかして、童貞?」
「……そんなことはない」
「そっか~~?
でも、実はそんなに経験無いんじゃない?
人肌って気持ちイイこと、ちゃんと知ってる?
今日は、僕、もう精子吐きつくして勃たないし。
この状態で、後ろに突っ込まれると、空イキばっかで苦しいからヤんないけど。
今度のバイトの日にメーヌリスに来てくれたら、うんとサービスするよ?」
「男の肌には、全く興味ない」
「ふ~~ん? つまんないの」
なんて、話をしながら。
花とお菓子の包みを横に置き、タクシーのふかふかクッションにでさえ、座れば悲鳴を上げるお尻の位置をずらしていたら、アルが、急にぼそっと言って来た。
「……静夜。
お前は、やっぱり男娼なんだな……でも、それって、本当に自分の意志でやってるのか?」
「……なにそれ?」
アルは、僕の職業を蔑んで言っているのだろうか?
それにしては、真摯に真剣に聞いて来たようだったけれども。
僕にはアルがなんで、そんなことを言いだしたのか判らなかった。
だから、却って思いのほか深く、僕の心をぐさっと刺した。
……僕の全部は、ルアの、もの。
だけどもルアは、僕のことなんて、好きじゃない。
それでも、僕の方は大好きなルアが、淫らに乱れる姿がイイ、って言うから……
なんて。
ちらっと浮かんだ心の声を無視して、僕は頬を膨らませた。
「……あたりまえじゃないか。
僕は、気持ちイイコトが大好きなんだ」
……誰かに、心から、愛されたい。
そんな気持ちなんて……知るもんか……クソ。
アルの一言で、心が震えて、泣きだしそう……になんて、なるもんか、ふん。
……でも。
……ただ。
ただ、なんとなく。
花と、お菓子をくれたブルーノ・コスタのお莫迦な顔が、見たくなっちゃったかなぁ。
だから。
さっきから『行き先をご入力ください』と光っているタクシーに『ブルーノ・コスタ邸』とかって入れてみる。
それを横目で見ていたアルが「……寄り道か? 今、何時だと思ってるんだ」なんて、言ってたけど、無視。
そんなの知らないよって、ただ、ぺろっと舌を出してみせた。
「別に、呼び鈴を押すつもりはないさ。
ただ、ブルーノの部屋、外からちらっと見てみるだけ」
「……また、気まぐれな事を。
仕事だから、付き合うが、手短に頼む」
「ありがとーー」
……仕事だから、ね。
なんか、ヤだなぁ。
僕は、棒読みみたいにアルにお礼を言うと、タクシーをブルーノ・コスタ邸に向かわせた。
最初のコメントを投稿しよう!