プロローグ~恋より刹那の快楽を~

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「あれ? アルはこんな話キライ?  ……もしかして、童貞?」 「……そんなことはない」 「そっか~~?  でも、実はそんなに経験無いんじゃない?  人肌って気持ちイイこと、ちゃんと知ってる?  今日は、僕、もう精子吐きつくして()たないし。  この状態で、後ろに突っ込まれると、空イキばっかで苦しいからヤんないけど。  今度のバイトの日にメーヌリスに来てくれたら、うんとサービスするよ?」 「男の肌には、全く興味ない」 「ふ~~ん? つまんないの」  なんて、話をしながら。  花とお菓子の包みを横に置き、タクシーのふかふかクッションにでさえ、座れば悲鳴を上げるお尻の位置をずらしていたら、アルが、急にぼそっと言って来た。 「……静夜。  お前は、やっぱり男娼なんだな……でも、それって、本当に自分の意志でやってるのか?」 「……なにそれ?」  アルは、僕の職業を蔑んで言っているのだろうか?  それにしては、真摯に真剣に聞いて来たようだったけれども。  僕にはアルがなんで、そんなことを言いだしたのか判らなかった。  だから、却って思いのほか深く、僕の心をぐさっと刺した。  ……僕の全部は、ルアの、もの。  だけどもルアは、僕のことなんて、好きじゃない。  それでも、僕の方は大好きなルアが、淫らに乱れる姿がイイ、って言うから……  なんて。  ちらっと浮かんだ心の声を無視して、僕は頬を膨らませた。 「……あたりまえじゃないか。  僕は、気持ちイイコトが大好きなんだ」  ……誰かに、心から、愛されたい。  そんな気持ちなんて……知るもんか……クソ。  アルの一言で、心が震えて、泣きだしそう……になんて、なるもんか、ふん。  ……でも。  ……ただ。  ただ、なんとなく。  花と、お菓子をくれたブルーノ・コスタのお莫迦な顔が、見たくなっちゃったかなぁ。  だから。  さっきから『行き先をご入力ください』と光っているタクシーに『ブルーノ・コスタ邸』とかって入れてみる。  それを横目で見ていたアルが「……寄り道か? 今、何時だと思ってるんだ」なんて、言ってたけど、無視。  そんなの知らないよって、ただ、ぺろっと舌を出してみせた。 「別に、呼び鈴を押すつもりはないさ。  ただ、ブルーノの部屋、外からちらっと見てみるだけ」 「……また、気まぐれな事を。  仕事だから、付き合うが、手短に頼む」 「ありがとーー」  ……仕事だから、ね。  なんか、ヤだなぁ。  僕は、棒読みみたいにアルにお礼を言うと、タクシーをブルーノ・コスタ邸に向かわせた。
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