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「話していただけませんか?本当のことを。
こんなこと、所長にしかできません。
いったい、なぜ…?」
国枝は職場で家庭の話をほとんどしたことがない。
12年前のこの事件の時も、職場には不幸があったとしか報告せず、葬儀は家族のみで行われ、今となっては誰もがその事件を忘れていた。
「浮かれていたんだよ…」
国枝は静かに話し始めた。
「執筆に関わった研究論文が、やっと承認され、これから病に苦しむ人々のため…、いや人類のために力を存分に発揮できる…。
そんな矢先の事件だった。
無惨に殺された妻、のうのうと生きている男。
許せなかった。
許すことなどできるものか。
自分の欲望のために簡単に人を殺した男が、まだ生きているんだぞ…
これ以上の苦痛はなかった。
俺は復讐を誓った」
国枝の視線は長戸に向けられていたが、その焦点は合っていなかった。
長戸を通り越し、向こう側の壁に向かって話しかけている…そんな表情だった。
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