独 白

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「でも…」  長戸はよろめく身体を懸命に支えながら、言った。 「殺人は許されることではありません」  国枝は机に視線を落としたまま、長戸の言葉を聞いた。 「そうだな…お前の言う通りだ」 「ウイルスはもの凄いスピードで進化しています。  我々人間も…ゆっくりですが、進化をしています。  進化とは何か?  人間における進化は、他者を思いやり、許し、助け合う精神を、頭で考えずとも行動に移せるようになること…そんな気がします。  まだまだそんな社会にはほど遠いかもしれませんが…  きっといつか、そんな日が来ることを、僕は信じています」  長戸は目に涙を溜めながら、懸命に話した。 「バケモノ級に世界を震撼させたウイルスですが…本当のバケモノは、人間なのかもしれません。  だけど、人間は変われます。  進化できる生物です。  だから『更生』とか『信頼』とか…  そんな言葉があるんじゃないでしょうか?」  熱っぽく語る長戸の言葉を、国枝は所長の椅子に座ったまま黙って聞いた。  今までウイルスの変遷を長年見てきた国枝にとって、それは新しい見解だった。  そして、自分の犯した過ちを認めることが、自分における進化なのか…そんなことが頭をよぎった。
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