世界浸食

1/2
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

世界浸食

 国立感染症ラボに勤める長戸弘人は、休日返上でこのウイルスの解明に当たっていた。 「長戸くん、どうかな?何か分かったかい?」  所長の国枝久志が声をかけてきた。  国枝は60手前の男で、毎日こうして職員全員に声をかけた。  研究者としても優れ、部下を気遣う国枝は周りからの信頼も厚く、研究所にはなくてはならない存在だった。 「いや…それがどの型にも当てはまらなくて…全くの新型ですよ。こいつは」  長戸は申し訳なさそうに答えた。 「そうか…、これは長い戦いになりそうだな。  まぁ、無理せずにやってくれ。時々は休まないとダメだぞ」  そう言うと、国枝は部屋を後にした。  所長の言葉はありがたかったが、そうのんびりもしてられない。  こうしている間にも、感染は拡大しているのだ。  長戸はブラックコーヒーを飲み干し、すぐさま研究室へと戻った。  宇宙服のような防護服に頭まで包み込み、特殊な手袋を着け、全身に消毒液シャワーを浴びて、部屋に入る。  規則正しく並んだ研究員全員が密閉された部屋で、頭を同じ角度に傾け顕微鏡を覗くその光景は、まさしく異様そのものだった。  しかし、今はそんなことを言っていられない。時は一刻を争うのだ。  長戸は気を引き締め、早速作業に戻った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!