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世界浸食
国立感染症ラボに勤める長戸弘人は、休日返上でこのウイルスの解明に当たっていた。
「長戸くん、どうかな?何か分かったかい?」
所長の国枝久志が声をかけてきた。
国枝は60手前の男で、毎日こうして職員全員に声をかけた。
研究者としても優れ、部下を気遣う国枝は周りからの信頼も厚く、研究所にはなくてはならない存在だった。
「いや…それがどの型にも当てはまらなくて…全くの新型ですよ。こいつは」
長戸は申し訳なさそうに答えた。
「そうか…、これは長い戦いになりそうだな。
まぁ、無理せずにやってくれ。時々は休まないとダメだぞ」
そう言うと、国枝は部屋を後にした。
所長の言葉はありがたかったが、そうのんびりもしてられない。
こうしている間にも、感染は拡大しているのだ。
長戸はブラックコーヒーを飲み干し、すぐさま研究室へと戻った。
宇宙服のような防護服に頭まで包み込み、特殊な手袋を着け、全身に消毒液シャワーを浴びて、部屋に入る。
規則正しく並んだ研究員全員が密閉された部屋で、頭を同じ角度に傾け顕微鏡を覗くその光景は、まさしく異様そのものだった。
しかし、今はそんなことを言っていられない。時は一刻を争うのだ。
長戸は気を引き締め、早速作業に戻った。
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