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1人キャンプのお誘い
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「一人キャンプはイイヨォ、白川くん」
足を組んで、デスク越しに話しかけてくる。
部長は家族もあるが、子供たちは大学生である。
育児も手を離れ自分の時間を満喫していた。
普段は温厚だが、いざという時は全身全霊でトラブルの解決に当たってくれる後ろ姿は頼り甲斐がある。
それに部下が失敗しても怒ったところを見たところはない。
そんな優しい部長に迷惑は掛けまいと部下は部下で前向きに仕事に取り組むのである。
社内には隔たりのない、どこか学生時代の部活にも似た柔らかい雰囲気が流れていた。
「白川君さぁ、仕事ばっかりしてないで一緒に一人キャンプ行こうよ!」
「部長、二人で行ったら一人キャンプにならないですよ。
どうせなら奥様を誘っては如何ですか?」
「妻は出不精だし、夫婦というものはあんまり干渉し合うとロクなことにならんよ!友達未満の距離感、恋人以上の絆を持っておくのが夫婦円満の秘訣なんだなぁ」
なるほど、と思った。
「空には満点の星空。辺りはユラユラ揺れる影と焚き火の匂い。昨日TVで見た燻製器さ、あれ欲しいなぁ。ウィスキー傾けながらチーズの燻製が出来上がるのを待つんだよ。贅沢な時間だと思わない?」
どこからか燻製の匂いが漂ってきそうだった。
白川は、ゆらゆらと揺れパチパチと音を立てる焚き火の炎を思い浮かべた。
全てを受け入れてくれる静かな森、優しい風鈴のようにしんしんと鳴く虫の声。
ブランデーで上気した顔に夜風が当たる。
「ああ、いいですねぇ」
「そうだろ!何を燻じるかは、個人の自由だ!燻じて呑む、燻じて呑む!」
「燻じるって言葉あるんですか?そうですねぇ、じゃあ来月ご一緒します。なんか僕も飲みたくなっちゃいました」
そうだろ、そうだろぉ、と部長は顔をほころばせた。
その日の夜、燻製器が届いたのである。
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